子ダンジョンの特色
アレンは子ダンジョンの改良に乗り出した。
現在、二十六の子ダンジョンはすべてCランクに設定されており、冒険者たちの稼ぎ場として利用されている。
しかし、アリスが管理するフルーツダンジョンと、セレスティアが管理しているダンジョンを除けば、これといった特色がなかった。
どのダンジョンに行っても、出現するモンスターや手に入るアイテムに大きな違いはない。冒険者たちにとっては、空いているダンジョンを選んで潜ればいいだけだった。
「せっかく二十六個もあるんだから、それぞれに特色を持たせるか」
アレンは、ダンジョンごとに手に入りやすいアイテムを変えることにした。
Aダンジョンでは剣が出やすい。
Bダンジョンでは槍が出やすい。
Cダンジョンでは盾が出やすい。
Dダンジョンでは鎧が出やすい。
Eダンジョンでは弓が出やすい。
そんな具合に、武器や防具を中心に、それぞれのダンジョンに特色を持たせていく。
もちろん、特定のアイテムしか手に入らないわけではない。あくまで、ほかのダンジョンよりも出現する確率が高いというだけだ。
「剣が欲しいならAダンジョン、槍が欲しいならBダンジョンって感じだな。これなら冒険者も目的に合わせてダンジョンを選べるだろ」
今までは、欲しい装備があっても、どのダンジョンに潜れば手に入るのか分からなかった。
それが、ダンジョンごとの特色を明確にすれば、装備を集める計画も立てやすくなる。
アレンは、なかなかいい改良だと思った。
そして、改良された子ダンジョンの情報は、すぐに冒険者たちの間に広まった。
その結果、アレンの予想どおり、喜ぶ冒険者たちが現れた。
「おい、聞いたか? Aダンジョンは剣が出やすくなったらしいぞ!」
「本当か! ちょうど新しい剣が欲しかったんだ!」
「今まで何度もダンジョンに潜ってきたけど、欲しい武器が手に入るかどうかは運次第だったからな。狙いを絞れるのはありがたいぜ」
「よし、次はAダンジョンに行こう!」
自分たちが必要としている装備を狙いやすくなったのだから、当然の反応だった。
これまでは、装備を更新したくても、なかなか目的のアイテムが手に入らないこともあった。
それが今では、欲しい装備に合わせてダンジョンを選べる。
冒険者たちにとっては、ありがたい改良だった。
しかし、すべての冒険者が喜んでいたわけではなかった。
あるパーティーでは、次にどのダンジョンへ行くのかを決める会議が開かれていた。
「次はAダンジョンに行こうぜ!」
剣士が勢いよく提案した。
「なんでだよ! 俺はBダンジョンに行きたいんだが!」
槍使いが反対する。
「お前、今の槍で十分戦えてるだろ!」
「十分かどうかは俺が決める! そもそも、お前の剣だってまだ使えるじゃないか!」
「俺の剣は攻撃力が足りないんだよ! パーティーの火力を上げるなら、俺の剣を強化するのが先だろ!」
「いやいや、前衛を守る俺の盾の強化が最優先だろ!」
今度は盾役まで口を挟んできた。
「盾が強くなれば、みんなが安心して戦えるんだぞ!」
「だったら俺の回復魔法のために、魔力を補助するアクセサリーを取りに行くべきよ!」
後衛の魔法使いまで参戦する。
「ちょっと待て! 俺たちはパーティーなんだから、全員の装備を考えて決めるべきだろ!」
「だったら俺の剣が先だ!」
「いや、俺の槍だ!」
「盾だって言ってるだろ!」
結局、誰も譲らなかった。
パーティー全体を強化するという目的は同じなのに、自分の欲しい装備が違うせいで、話がまとまらない。
これまでは、どのダンジョンに行っても手に入るアイテムに大差がなかったため、行き先を決めるのに苦労することはなかった。
しかし、ダンジョンごとに特色が生まれたことで、事情が変わってしまったのだ。
「そもそも、お前らは自分の装備のことしか考えてないじゃないか!」
「お前だって自分の盾のことしか考えてないだろ!」
「俺はパーティーの生存率を考えてるんだ!」
「俺はパーティーの火力を考えてるんだよ!」
もはや、どちらの言い分が正しいのか分からない。
結局、そのパーティーは行き先を決められないまま、会議を終えることになった。
そして、似たような光景は、ほかのパーティーでも見られるようになっていた。
剣士がAダンジョンを推し、槍使いがBダンジョンを推す。
盾役はCダンジョンを推し、魔法使いは自分に必要な装備が手に入りやすいダンジョンを推す。
全員がパーティーの強化を考えているはずなのに、意見が一致しない。
中には、装備の優先順位を決めるために、リーダーが頭を抱えるパーティーまで現れた。
一方、うまくいっているパーティーもあった。
「よし、今回は俺の剣を更新する。その次は盾、その次は槍だ!」
「おう! 順番が決まっているなら問題ないな!」
「必要な装備を順番に揃えていけば、無駄なく強くなれるからな!」
パーティー内で装備の優先順位を決めていた者たちは、ダンジョンごとの特色を歓迎していた。
欲しいアイテムが手に入りやすいダンジョンを選べるのだから、装備を揃えるまでの見通しも立つ。
さらに、パーティーによっては、今まで使っていた装備を別のメンバーに譲り、新しく手に入れた装備を主力に回すなど、効率よく戦力を強化するようになった。
こうして、冒険者パーティーは二つに分かれた。
ダンジョンごとの特色を活用し、計画的に装備を整えるパーティー。
そして、メンバー同士で欲しい装備が食い違い、行き先をめぐって喧嘩になるパーティー。
どちらも、パーティーを強くしたいという気持ちは同じだった。
ただし、全員が自分の装備を最優先に考えていると、いつまで経っても行き先は決まらない。
そんな騒ぎが各地で起きていることなど知らず、アレンはダンジョンの管理画面を眺めていた。
「うんうん、いい感じだな。これで子ダンジョンの特色が出てきた」
ダンジョンごとに冒険者たちの目的が分かれれば、それぞれのダンジョンが活用されるようになる。
アレンとしては、狙いどおりの結果だった。
「これなら、冒険者たちも喜んでくれるだろ」
実際、喜んでいる冒険者は多かった。
ただし、パーティーメンバー全員が喜んでいるとは限らない。
アレンはそんなことに気づかないまま、次の改良を考え始めるのだった。




