王妃の企み
アレンは宝くじ箱の景品を設定するとき、二等だけは必ず宝石にすると決めていた。
一番最初に設定した宝石はアクアマリンだった。
その後、トパーズ、ルビー、サファイア、エメラルド、ガーネット、アメジストと続き、誰もが知っている有名な宝石はすでにいくつも景品にしている。
一方、四等には酒を固定していた。
酒は冒険者からの人気が高い。
宝石は価値が高い。
その程度の理由で、アレンは深く考えずに設定していた。
だが、アレンの知らないところでは、この宝石が毎月ひとつずつ王妃のもとへ届けられていた。
「今回も素晴らしいわね」
王妃は侍女から受け取った宝石を、窓から差し込む光にかざした。
淡い光を受けて、宝石が美しく輝く。
「これがEランクダンジョンの宝くじ箱から出たものなのですか?」
「はい。二等の景品として出たものを、王家へ献上された品でございます」
「本当に不思議なダンジョンね」
王妃は宝石を手のひらに乗せた。
これまでにも何度も宝石を受け取っている。
アクアマリン。
トパーズ。
ルビー。
サファイア。
エメラルド。
ガーネット。
アメジスト。
同じ種類の宝石が続くことはなく、毎月のように違う宝石が届いていた。
「それにしても……」
王妃は少し考える。
「毎月違う宝石を出すなんて、いったい何種類あるのかしら?」
「確認できているだけでも相当な数になるかと」
「まだ出ていない宝石もあるのね?」
「はい」
侍女が答える。
「宝石そのものの種類は非常に多いですから。今まで確認されたものだけでも、まだ一部だと思われます」
「そう」
王妃は満足そうに頷いた。
毎月違う宝石が届く。
次は何が出てくるのか。
それを考えるだけでも、ちょっとした楽しみになっていた。
だが、王妃にはもう一つ気になることがあった。
「ただ……」
「はい」
「大きさは、これくらいが限界なのかしら?」
王妃は宝石を眺めながら呟いた。
どの宝石も素晴らしい。
品質について文句をつけるつもりはない。
しかし、王妃が望むのは国宝級の巨大な宝石だった。
今まで届いた宝石は、どれも一級品ではあるものの、巨大というほどではない。
「このクラスの宝石がEランクダンジョンから出ること自体が奇跡です」
侍女が答える。
「それは分かっているわ」
王妃は笑った。
「だからこそ、欲が出てしまうのよ」
最初の頃なら、宝石が出るだけで驚いていた。
それが何度も届くようになれば、今度は別の期待が生まれてくる。
次はもっと大きなものが出るのではないか。
もっと珍しい宝石が出るのではないか。
「このダンジョン……」
王妃は少し考えてから、侍女に尋ねた。
「要望箱が設置されているのでしょう?」
「はい。冒険者がダンジョンへの要望を書いて入れる箱だと聞いております」
「ならば、こちらの要望も伝えられないかしら?」
「こちらから直接要望するのは、難しいと思われます」
「なぜ?」
「要望箱に手紙を入れても、ダンジョン側から返事が来るわけではありませんので」
「なるほど」
王妃は少し残念そうな顔をした。
ダンジョンが意思を持っている。
そう考えれば、こちらの希望を伝えれば何か反応があるかもしれない。
だが、今のところ意思疎通ができるという証拠はない。
「ですが……」
侍女が続けた。
「一つ、気になる傾向がございます」
「何かしら?」
「宝くじ箱への応募口数が増えた時期ほど、景品が豪華になる傾向があるようなのです」
王妃は顔を上げた。
「応募口数が増えると?」
「はい」
「それは偶然ではないの?」
「その可能性もございます。ただ、複数回確認されております」
侍女は資料を取り出した。
「最初の頃と比べ、宝くじ箱へ応募する冒険者は増えております。その後、景品の内容も少しずつ変化しております」
「つまり……」
王妃は資料を見る。
「ダンジョンは応募される魔石の量を見ている可能性がある、と?」
「断定はできません。ただ、そう考えると説明しやすい部分はございます」
「面白いわね」
王妃は楽しそうに笑った。
もし本当にそうなら、要望箱へ「もっと大きな宝石を出して」と書くより、別の方法がある。
応募を増やす。
それによってダンジョンが景品を変えるのなら、こちらから間接的に意思を伝えられるかもしれない。
「それなら試してみましょう」
「はい」
「他のダンジョンの魔石を使って、あの宝くじ箱に応募してみて頂戴」
侍女が少し驚く。
「他のダンジョンの魔石でございますか?」
「ええ」
王妃は頷いた。
「もしあのダンジョンが、応募された魔石の量だけを見ているのなら、どこのダンジョンの魔石を使っても関係ないでしょう?」
「確かに……」
「逆に、あのダンジョンから出た魔石でなければ駄目なのなら、それも一つの情報になるわ」
王妃は宝石を机の上へ置いた。
「どちらに転んでも、試す価値はあるでしょう」
「では、他のダンジョンの魔石を集めて応募いたします」
「お願い」
侍女が一礼する。
「分かりました」
王妃は去っていく侍女を見送る。
そして、机の上に置かれた宝石をもう一度眺めた。
「次は何が出てくるのかしら」
これまでは、届く宝石を楽しみにしているだけだった。
だが、今度からは違う。
自分たちが応募することで、景品が変化するのか。
もし本当に変わるのなら――。
「もっと大きな宝石が出てきたりして」
王妃は少し期待しながら、宝石を手に取った。
一方その頃。
当のアレンは、王妃がそんな実験を始めようとしていることなど知る由もなかった。




