役割分担
アレンは冒険者学校で授業をしていた。
今回の授業内容は、パーティーの役割分担についてだ。
冒険者にとって、パーティー編成は重要である。
どれだけ強い冒険者が集まっていても、役割分担ができていなければ、本来の実力を発揮できない。
逆に、それぞれが自分の役割を理解していれば、格上の敵にも勝てる可能性がある。
とはいえ、ただ説明するだけでは面白くない。
そこでアレンは、教室に大量のゲーム機を用意していた。
「今日はゲームを使って授業をする」
「ゲームですか?」
「そうだ。これからお前たちには、パーティーを編成してボスを倒してもらう」
生徒たちの顔が明るくなった。
冒険者学校の授業でゲームができる。
それだけで、生徒たちにとっては魅力的だった。
「ルールは簡単だ。アタッカー、ブレイカー、ディフェンダー、ヒーラー、バッファー、デバッファー。この六つの役割から五人を選んでパーティーを作れ。そしてボスを倒せ」
アレンは、それぞれの役割について説明を始めた。
「まず、アタッカー。こいつは火力を出す役割だ。敵にダメージを与えて倒す。分かりやすい役割だな」
生徒たちは頷いた。
「次にブレイカー。敵のシールドを破壊する役割だ。シールドを破壊すれば、攻撃を通しやすくなる」
続いて、ディフェンダーを説明する。
「ディフェンダーは味方を守る。敵の攻撃を引き受けたり、防御したりする役割だ」
「ヒーラーは回復ですね!」
「そうだ。味方の体力を回復して、戦闘を続けられるようにする」
アレンはさらに説明を続けた。
「バッファーは味方を強化する。攻撃力を上げたり、スピードを上げたりする。デバッファーはその逆だ。敵の防御力を下げたり、スピードを落としたりして、敵を弱体化させる」
六つの役割の説明が終わった。
「編成は自由だ。同じ役割を何人入れてもいい。ただし、五人までだ。敵の情報を確認して、自分たちで考えてパーティーを組め」
「先生、アタッカーを五人入れてもいいんですか?」
「ルール上はな」
「じゃあ、それで倒せばいいんですね!」
「倒せるならな」
アレンはそれ以上説明しなかった。
まずは自由にやらせてみる。
それも今回の授業の狙いだった。
ゲームが始まると、生徒たちはさっそくパーティー編成に取りかかった。
「やっぱりアタッカーは必要だよな」
「火力がないと倒せないしな」
「ディフェンダーなんていらないだろ。攻撃される前に倒せばいいんだよ」
「ヒーラーもいらないんじゃないか? 回復するくらいなら、その分攻撃したほうがいいだろ」
生徒たちは、口々に自分の考えを述べながら編成を組んでいく。
もちろん、全員が同じ考えというわけではない。
ディフェンダーやヒーラーを入れて、安定した編成を組む生徒もいた。
しかし、多くの生徒が重視したのは火力だった。
アタッカーを中心に編成し、敵が強くなる前に倒し切る。
実に分かりやすい戦法である。
そして、ゲームが始まった。
「よし、いける!」
「攻撃しろ! 一気に倒すぞ!」
序盤は順調だった。
敵の攻撃を受ける前に大きなダメージを与え、次々と敵を倒していく。
火力重視の編成を選んだ生徒たちは、自分たちの判断が正しかったと喜んでいた。
だが、ボス戦は甘くなかった。
ボスの攻撃は強烈だった。
防御役がいないため、攻撃がそのまま仲間に集中する。
回復役がいないため、減った体力を戻すこともできない。
それでも生徒たちは攻撃を続けた。
「もう少しだ! 先に倒せば勝ちだ!」
しかし、ボスは倒れない。
そして、生徒たちのパーティーが次々と倒されていった。
「あれ?」
「なんで負けたんだ?」
「火力は十分だったはずなのに……」
教室のあちこちから、困惑した声が聞こえてきた。
一方、ディフェンダーとヒーラーを入れた生徒たちも、簡単には勝てなかった。
今度は耐久力がある代わりに、火力が足りない。
ボスの攻撃を耐え続けても、倒し切る前に戦闘が長引いてしまう。
「耐えられるけど、全然倒せない!」
「攻撃役を増やしたほうがよかったのか?」
アレンは生徒たちの様子を眺めていた。
すぐに答えを教えるつもりはない。
何度も挑戦して、自分たちで気づいてもらう。
それが今回の授業なのだから。
生徒たちは編成を変え、再びボスに挑戦した。
アタッカーを増やしてみる者。
ブレイカーを入れてシールドを破壊する者。
バッファーとデバッファーを組み合わせ、味方を強化しながら敵を弱体化させる者。
ディフェンダーとヒーラーを両方入れ、残りの枠で火力を確保しようとする者。
試行錯誤を繰り返すうちに、生徒たちは少しずつ気づき始めた。
火力が高ければ、それだけで勝てるわけではない。
耐久力が高ければ、それだけで勝てるわけでもない。
敵の能力によって、有効な役割も編成も変わるのだ。
そして、何度目かの挑戦。
「よし! 倒したぞ!」
教室の一角から歓声が上がった。
そこでは、五人の役割をうまく組み合わせた生徒たちが、ついにボスを倒していた。
「先生、勝ちました!」
「そうか。おめでとう」
「最初は火力だけで押し切ろうとしたんですけど、ダメでした。ブレイカーでシールドを壊して、バッファーで攻撃力を上げたら、ようやく倒せました!」
「敵によっては、それが正解になるな」
「でも、別のボスだとこの編成では勝てませんでした!」
「当然だ。すべての敵に通用する万能な編成なんて、そう簡単には作れない」
アレンは教室を見回した。
「大事なのは、パーティーの役割を理解すること。そして、敵の能力を確認して、何が必要なのかを考えることだ。攻撃役ばかり増やしても、敵を倒す前に全滅したら意味がない。逆に、防御ばかり固めても、敵を倒せなければ勝てない」
生徒たちは真剣に聞いていた。
「何事もバランスだ。敵によって最適な編成は違う。自分の好きな役割だけにこだわるな」
「「「はい!」」」
こうして、アレンの授業は大成功に終わった。
生徒たちはパーティーの役割分担について学び、敵に合わせて編成を考えることの大切さを理解した。
授業の評価も上々だった。
生徒たちからは、次の授業もゲームにしてほしいという要望が殺到した。
そして数日後。
冒険者学校では、妙な変化が起きていた。
以前は授業が終わると、すぐに冒険へ出かけていた生徒たちが、教室に残るようになったのだ。
「昨日のボス、あの編成じゃ無理だったよな」
「いや、デバッファーを入れればいけると思うぞ」
「じゃあ、もう一回やろうぜ!」
放課後になっても、生徒たちはゲーム機の前から動かなかった。
冒険者活動に出かける生徒が減り、ゲームを楽しむ生徒が増えていた。
その報告を受けたアレンは、頭を抱えた。
「……何でこうなるんだ」
パーティーの役割分担を理解させる。
敵に合わせた編成の重要性を学ばせる。
授業の目的は、きちんと達成できたはずだ。
なのに、冒険者活動が減っている。
「授業は好評なんだよな?」
報告書には、生徒たちからの高評価が並んでいた。
授業の満足度は高い。
次回も同じ形式を希望する生徒が多い。
ゲームを通じて役割分担への理解も深まっている。
どこにも問題はない。
少なくとも、報告書の上では。
「……まあ、役割分担を理解したならいいか」
アレンは考えるのをやめた。
そもそも、ゲームを楽しむこと自体は悪いことではない。
ただし。
「次の授業は、冒険者活動の重要性について教えるか……」
アレンは、次の授業内容を考え始めた。
もっとも、その授業で何を使うのかは、まだ決めていなかった。




