編集技術
「ねえ、アレン」
「どうした?」
セレスティアは、手元にあるプロマイドを眺めながら首を傾げた。
「あなたが販売しているプロマイドって、どういう仕組みなの?」
「仕組み?」
「ええ。今見ている景色を切り取って、紙に移している感じなのかなって」
「まあ、そんな感じだな」
アレンは適当に答えた。
実際には、景色を切り取って紙に移すという説明で間違ってはいない。ただし、彼が販売しているプロマイドには、少々問題があった。
「でも、これって……」
セレスティアは一枚のプロマイドを手に取った。
そこに写っているのは、可愛らしい魔法少女の衣装を身にまとった自分の姿だった。
「私、魔法少女の衣装なんて着たことないわよ?」
「ああ、それは衣装だけ編集したからな」
「……どういうことよ?」
セレスティアがジト目でアレンを見る。
自分の記憶には、こんな衣装を着て撮影した覚えなどない。
それなのに、写真の中の自分は、まるで本当にその衣装を着ていたかのように写っている。
「写真の編集だよ。例えば、右の写真と左の写真があるだろ?」
アレンは別々のプロマイドを取り出した。
「こっちの写真の顔と、こっちの写真の顔を入れ替えたりできるのさ」
「顔だけを?」
「そう。衣装を変えたり、背景を変えたり、いろいろできる」
「そんなことまでできるの……?」
セレスティアは二枚の写真を見比べた。
確かに、そんな技術があれば、実際には着ていない衣装を着た写真だって作れる。
しかし、そうなると別の疑問が浮かんでくる。
「じゃあ、他の写真も編集で作ったの?」
「もちろん」
「……もちろん?」
「そうだぞ」
アレンはあっさりと答えた。
セレスティアは、手元にあるプロマイドを一枚ずつ確認していく。
どれも自然な写真に見える。
衣装も、背景も、表情も、それらしく仕上がっている。
しかし、アレンの説明が本当なら、これらはすべて編集された写真ということになる。
「この写真は?」
「ああ、それは隠し撮りだな」
「………………」
「………………」
沈黙が流れた。
アレンは、自分が何を口にしたのか理解した。
隠し撮り。
今、自分でそう言った。
セレスティアの視線が、ゆっくりとアレンに向けられる。
やばい。
墓穴を掘った。
「……アレン?」
「いや、待て。話せば分かる」
「何を?」
「………………」
説明しようとしたものの、何を説明しても余計に悪化する気しかしなかった。
セレスティアは別のプロマイドを手に取った。
「じゃあ、この写真は?」
「ああ、それは俺がドッペルでセレスティアに化けた」
「………………」
「………………」
またしても沈黙が流れた。
セレスティアは写真を見て、それからアレンを見た。
写真の中にいるのは、間違いなくセレスティアの姿だ。
だが、本人が撮影したものではなく、アレンが化けて撮影したものらしい。
「……そう」
「そうだ」
「………………」
「………………」
まずい。
このままでは、プロマイドの説明どころではなくなる。
アレンは必死に話題を変えることにした。
「まあ、とにかくだ。こういう編集技術を普及させる気はないかな」
「どうしてよ?」
「悪用される可能性があるからだ」
「悪用?」
「ああ。例えば、この裸の写真があるだろ?」
アレンは一枚の写真を示した。
「これにセレスティアの顔だけを合成したら、セレスティアのヌード写真に見えたりするだろ?」
「………………」
「本人がそんな写真を撮ってなくても、作れてしまう。そんな技術を誰でも使えるようにしたら、いろいろと問題が起きると思うんだよ」
写真の顔を入れ替えられる。
衣装も変えられる。
つまり、本人が実際にはしていないことまで、写真の上では本当にあったことのように見せられるのだ。
便利な技術ではあるが、使い方を間違えれば面倒なことになる。
「だから、普及させるつもりはない」
「……そう」
セレスティアは、少し考え込んだあと、ぽつりと言った。
「私の身体はもっと綺麗よ」
「知ってる」
「………………」
「………………」
再び沈黙が流れた。
アレンは、余計なことを言ったと気づいた。
セレスティアは無言でアレンを見つめている。
「………………」
「………………」
「忘れなさい」
「はい」




