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ダンジョンでニート生活始めます ~冒険者を集め、町を発展させ、経済を動かし、世界に影響を与えるダンジョン経営~  作者: まゆな


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紛争

とある国で、紛争が起きていた。


 文明レベルが戦国時代程度のこの世界では、地球と同じように戦争が絶えなかった。


 領土を巡る争い、資源を巡る争い、王位継承を巡る争い。


 過去の遺恨から始まるものもあれば、隣国の弱体化を狙って仕掛けられるものもある。


 どちらか一方に明確な非がある場合もあれば、双方に言い分があり、どちらが悪いとも簡単には判断できない場合もある。


 国が違えば、正義も違う。


 自国の民を守るために戦っていると主張する国もあれば、奪われた領土を取り戻すためだと主張する国もある。


 そして、戦争が始まれば、どちらの国も自分たちに都合のいい説明をするものだった。


 これまでは、遠い国で起きた紛争など、関係のない国にとっては他人事だった。


 情報が届くまでに時間がかかる。


 使者が国境を越え、各地を経由して、ようやく王都にたどり着く。


 その頃には状況が変わっていることも珍しくなかった。


 現地の詳しい事情を調べるにも時間がかかる。


 戦争の原因を知ろうにも、当事国の主張が正しいのかを確かめる手段は限られていた。


 そのため、自国に直接関係のない争いであれば、静観する国が多かった。


 遠い国の紛争に介入するには、それなりの理由が必要になる。


 軍隊を動かすには金がかかる。


 兵士を失う危険もある。


 勝ったところで何の利益もないのなら、関わらないほうがいい。


 それが、これまでの各国の考え方だった。


 ところが、ダンジョンができてから状況が変わった。


 ダンジョンを通じて、人や物が移動できるようになった。


 そして、人が移動するようになれば、情報も一緒に移動する。


 商人が遠い国の情勢を伝える。


 冒険者が旅先で見聞きしたことを話す。


 各地を行き来する人間が増えたことで、これまでならなかなか届かなかった情報が、以前よりも早く各国へ伝わるようになっていた。


 もちろん、すべての情報が正確なわけではない。


 噂もあれば、勘違いもある。


 意図的に流された情報だってあるだろう。


 それでも、情報が届くまでに何か月もかかっていた時代と比べれば、大きな変化だった。


 そして今回の紛争でも、その変化が各国を悩ませていた。


 双方の国から、味方になってほしいという要請が届いていたのである。


 片方の国は、自国の領土を侵害されたと主張していた。


 相手国が先に軍を進めてきたのだから、自国が反撃するのは当然だという。


 もう片方の国は、それを否定していた。


 問題の土地はもともと自国の領土であり、相手国が不当に占領している。


 今回の軍事行動は、その土地を取り戻すためのものだという。


 どちらも、自分たちが正しいと主張していた。


 そして、どちらも相手が悪いと訴えていた。


 双方の言い分を聞けば、どちらにもそれらしい理由がある。


 しかし、片方の主張を認めれば、もう片方の主張を否定することになる。


 どちらか一方に味方すれば、もう一方から敵と見なされる可能性もあった。


 かといって、何もせずに静観していれば、後になって責任を問われるかもしれない。


 紛争が拡大した場合、どちらに協力していたかによって、その後の外交関係も変わってくる。


 各国は慎重にならざるを得なかった。


 そもそも、一方的な侵略行為なのか、それとも双方に原因がある争いなのか。


 それを判断するためには、もっと情報が必要だった。


 しかし、当事国の主張だけで真実を判断することはできない。


 だからといって、軍隊を派遣して現地を調べるわけにもいかない。


 調査のために派遣した兵士が、相手国から敵対行為と見なされる可能性だってあるのだ。


 結局、多くの国は静観することを選んだ。


 現時点では、一方的な侵略行為だと断定できなかったからである。


 今回の紛争は、小国同士の争いだった。


 両国とも、周辺の大国と比べれば国力は小さい。


 仮にどちらかが敗北したとしても、それだけで世界の勢力図が大きく変わるとは考えにくかった。


 もちろん、当事国にとっては重大な問題だ。


 しかし、他国が自国の兵士を危険にさらしてまで介入するかといえば、話は別だった。


 そのため、各国は両国の主張を聞きながらも、積極的な介入を避けていた。


 だが、これが大国同士の争いだったら、そうはいかない。


 大国には同盟国がある。


 長年の協力関係があり、軍事的な約束もある。


 同盟国が攻撃された場合、支援しなければ自国の信用にも関わる。


 一方の大国が参戦すれば、もう一方の大国にも同盟国がいる。


 そうなれば、最初は二つの国だけの争いだったものが、次々と周辺国を巻き込んでいく可能性があった。


 しかも、この世界には火種があちこちにある。


 表面上は友好関係を築いていても、内心では隣国を警戒している国もある。


 過去に奪われた土地を取り戻したいと考えている国もある。


 今は平和でも、何かのきっかけで争いが始まる可能性は十分にあった。


 そして、ダンジョンが普及したことで、そうした争いのあり方まで変わろうとしていた。


 これまで、遠い国へ軍隊を送るには、多くの時間と費用が必要だった。


 兵士を集め、食料を用意し、武器や物資を運び、何日も何か月もかけて移動する。


 遠征が長引けば、それだけ国の負担も増える。


 しかし、ダンジョンを利用できるなら、その移動にかかる負担を大きく減らせる可能性がある。


 商人や冒険者にとって便利な仕組みは、軍隊にとっても便利な仕組みになり得るのだ。


 各国がその可能性に気づかないはずがなかった。


 だからこそ、ダンジョンの扱いは難しい問題になりつつあった。


 平時には経済を発展させ、人々の暮らしを便利にする。


 しかし、戦争になれば、その便利さが軍事的な価値を持ってしまう。


 ダンジョンを利用できる国と、利用できない国。


 その差が、戦争の結果を左右することだって考えられる。


 各国にとって、ダンジョンは無視できない存在になっていた。


 そして、そのダンジョンを運営しているのがアレンだった。


     *


 一方、アレンはダンジョンの外で起きた出来事に干渉するつもりはなかった。


 そもそも、アレンがダンジョンを運営しているのは、世界中の争いを解決するためではない。


 冒険者が攻略できる場所を作り、商人が商品を運び、人々が便利に利用できる環境を整える。


 それがアレンの考えだった。


 ダンジョンの外で何が起きようと、基本的には各国が自分たちで解決すればいい。


 国同士の争いに、わざわざ首を突っ込むつもりはなかった。


 そもそも、どちらの国が正しいのかを判断するだけでも面倒だ。


 双方の主張を聞き、情報を集め、現地の事情を調べる。


 そのうえで片方を支援すれば、もう片方から恨まれる。


 両方を支援すれば、何のために支援したのか分からなくなる。


 どちらにも協力しなければ、今度は協力を拒否されたと文句を言われるかもしれない。


 何をしても面倒なことになる未来しか見えなかった。


「……俺には関係ないだろ」


 アレンはそう考えていた。


 ダンジョンを利用して商売をするのは自由だ。


 冒険者がダンジョンを攻略するのも自由だ。


 ダンジョンを通じて人々の交流が増えるのも、アレンにとっては望ましいことだった。


 だが、戦争のために利用されるのは話が違う。


 片方の国が軍隊を移動させるためにダンジョンを使いたいと言ってきたら、どうするのか。


 それを認めれば、相手国も同じことを要求するだろう。


 片方だけを拒否すれば、なぜ相手国には認めたのかと追及される。


 両方に認めれば、ダンジョンが戦争の道具になってしまう。


 そして、一度認めてしまえば、次からも同じ要求が来るに違いない。


 最初は軍隊の移動だけだったとしても、そのうち武器や物資の輸送、さらには軍事拠点としての利用まで求められるかもしれない。


 そんなことになれば、冒険者や商人が安心して利用できる場所ではなくなってしまう。


 アレンは、そんな面倒な事態を避けたかった。


「戦争は国同士で勝手にやってくれ。俺のダンジョンを巻き込むなよ」


 ダンジョンの外で争うのは、各国の自由だ。


 アレンがその争いを止めるつもりはない。


 ただし、自分のダンジョンまで巻き込むのはやめてほしい。


 それだけだった。


 しかし、世界がダンジョンを便利なものとして利用すればするほど、ダンジョンに求められる役割は増えていく。


 人や物を運ぶ。


 情報を伝える。


 各国の経済を支える。


 そして、戦争が起きれば、軍事的な利用価値まで生まれる。


 アレンが何も変えるつもりがなくても、周囲がダンジョンに期待するものは変わっていくのだった。


 アレンは、そんなことを深く考えず、今日もダンジョンの運営を続けていた。


 世界の平和を守るつもりはない。


 国同士の争いを仲裁するつもりもない。


 ただ、自分のダンジョンで好きなことをして暮らしたいだけだった。


 だからこそ、アレンは願っていた。


 どうか、ダンジョンを戦争に巻き込まないでくれ、と。

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