アレンのスタンス
「ねえ、アレン」
「どうした?」
セレスティアは、しばらく考えていたことをアレンに尋ねた。
「ダンジョンの数は、このままなの?」
「どういうことだ?」
「今は各国に一つずつダンジョンがあるでしょう? でも、これから国が併合されたり、国境線が変わったりした場合はどうするのかと思って」
ダンジョンは、今や国の発展に欠かせない存在になっている。
冒険者が集まり、商人が集まり、ダンジョンの周囲には人が集まって街ができる。魔石や素材が流通し、宿屋や飲食店などの商売も繁盛する。
ダンジョンがあるかどうかで、国の経済や人の流れが大きく変わるのだ。
だからこそ、国そのものの形が変わった場合、ダンジョンの扱いはどうなるのか。
セレスティアは気になっていた。
「どうもしないぞ」
「……どうもしないって?」
「国が併合されたら、一つの国にダンジョンが二つあってもいいだろ」
「それはそうだけど、二つある国と一つしかない国では差が出るんじゃない?」
「今よりその国が有利になるとは思えないけどな」
アレンはあっさりと答えた。
「どうして?」
「ダンジョンが二つあれば、冒険者や商人が集まる場所が増える。それは確かだ。でも、国全体の利益が単純に二倍になるわけじゃないだろ」
アレンは指を折りながら説明した。
「冒険者が二つのダンジョンに分かれるかもしれないし、商人だって両方に店を出せるとは限らない。人も金も、それぞれの場所に分散する。ダンジョンが二つあるからといって、国の力がそのまま二倍になるわけじゃない」
「なるほど……。確かに、ダンジョンが増えれば、それだけ管理する場所も増えるわね」
「そういうことだ。もちろん、二つあること自体は有利な面もあるだろうけどな」
アレンは別に、ダンジョンが二つあることを問題視しているわけではなかった。
各国がどうやって自国を発展させるかは、その国が考えることだ。
「ただ、国境線が変わって、二つある国とダンジョンのない国に分かれた場合は影響があるかもしれないな」
アレンは、ふと思い出したように付け加えた。
「そうでしょう? ダンジョンのない国は、冒険者や商人を呼び込むのが難しくなるかもしれない。そうなったら、国同士で不公平だという話にならないかしら?」
「なるかもしれないな」
「それでも何もしないの?」
「どうもしないぞ」
「またそれなの?」
セレスティアは思わず声を上げた。
少しは考えるかと思ったのに、アレンの答えは最初から変わらない。
「だって、ダンジョンは動かないだろ。それに、一度手に入れたダンジョンを手放す気もない」
「ダンジョンを移動させるつもりはないってことね」
「そういうことだ」
「じゃあ、ダンジョンのない国から、ダンジョンを寄越せと言われたら?」
「断る」
「……即答ね」
「俺のダンジョンなんだから、当たり前だろ」
アレンにとって、ダンジョンは国に与えられた施設ではない。
自分が管理し、自分の意思で運営している場所だ。
国境線が変わろうと、国が併合されようと、それだけでダンジョンの所有者や運営方針が変わるわけではない。
「そもそも、俺はダンジョンの外で起きた出来事に干渉するつもりはないからな」
「国同士の争いも?」
「もちろん」
「戦争になっても?」
「俺には関係ないだろ」
アレンは平然としていた。
セレスティアは、その態度が理解できないというように眉を寄せた。
「でも、ダンジョンの存在が国の情勢に影響を与えることはあるでしょう? あなたが何もしなくても、周りが勝手に影響を受けるのよ」
「それはそうだろうな。でも、だからといって俺が全部の問題を解決しなきゃいけない理由にはならないだろ」
「それは……そうだけど」
「ダンジョンを利用するのは自由だ。ダンジョンを使って国を発展させるのも自由。でも、ダンジョンがあるからって、国の面倒まで見るつもりはないぞ」
アレンは自分の方針を変える気がなかった。
ダンジョンを利用してもらうことと、国を守ることは別問題なのだ。
「じゃあ、王国が他国に攻められたら?」
セレスティアが尋ねた。
「傍観する」
「王妃様や私やフローラがどうなってもいいの?」
今度は、少しだけ声に感情がこもっていた。
アレンにとって、自分たちは知り合いのはずだ。
それなのに、国が攻められても何もしないという。
セレスティアとしては、そこが気になった。
アレンは少し考えてから答えた。
「ダンジョンの中に逃げ込んできたら守ってやるよ」
「……あなたは優しいのか残酷なのか分からないわね」
セレスティアはため息をついた。
「だって、王国が攻められたら傍観するんでしょう? 私たちが助けを求めても、ダンジョンの外には出てこない。でも、ダンジョンの中に入れば守ってくれる。ずいぶんと都合のいい線引きね」
「俺にとっては、これが一番分かりやすいんだよ」
「どういう意味?」
「ダンジョンは、どの国の味方にもならない。俺が特定の国を守れば、他の国から見れば敵になるだろ。そうなったら、ダンジョンそのものが戦争に巻き込まれることになる」
アレンは淡々と説明した。
「でも、知り合いがダンジョンに逃げ込んできたら話は別だ。俺のところに助けを求めてきた人間を守るくらいなら、別に構わない」
「つまり、国は守らないけど、私たちは守るってこと?」
「そういうことだ」
アレンは当たり前のように頷いた。
「ダンジョンはどの国の味方もできないけど、知り合いだけは助けたいだけさ」




