宅急便
アレンが作った魔法の箒は、屋敷の片隅で壁に立てかけられていた。
空を飛べるという画期的な道具だったはずなのに、今ではすっかり置物と化している。
アレンはその光景を目にすると、セレスティアたちに不満をぶつけた。
「せっかくあげたんだから使えよ」
「屋敷の中を箒で移動する必要もないし、空では危ないわ」
セレスティアは、もっともな理由を挙げた。
「せっかく空を飛べるのに、使わないのはもったいないだろ」
「空を飛べること自体は凄いと思うわよ。でも、わざわざ危険を冒してまで使う必要があるかしら?」
「そうですね。凄いのは分かるんですが、使いどころがありませんね」
フローラも同意した。
便利な道具であっても、使う目的がなければ出番はない。
空を飛ぶこと自体が目的ならともかく、普段の生活でわざわざ箒に乗る必要はなかった。
「私は家で練習してます」
そんな中、クラリスだけは魔法の箒を使っているらしい。
「おお、さすがクラリスだな」
アレンは嬉しそうに頷いた。
「クラリスだけだな、浪漫が分かるのは」
「浪漫だけで使うものでもないと思いますけど……」
フローラが苦笑する。
「あなた、だったら何に使うのよ?」
セレスティアが尋ねた。
「俺だったら魔法の箒で配達するぞ」
「何で配達なのよ」
セレスティアは即座に突っ込んだ。
空を飛べる道具を手に入れて、最初に思いつくのが配達というのも、アレンらしいといえばアレンらしい。
「空を飛ぶと最短距離で移動できて早いぞ」
「それは分かるけど、わざわざ箒で配達する必要があるの?」
「馬車だと道が必要だろ。道が遠回りになっていても、その道に沿って移動するしかない。でも、空なら目的地に向かってまっすぐ飛べる」
アレンは指で空中に線を引くような仕草をした。
「山や川があっても、上を越えればいい。道の状態を気にする必要もない。距離が短くなる分、移動時間も減るぞ」
「なるほど……」
フローラは考え込んだ。
今までは、王都との連絡にも人や馬車を使っていた。
距離が遠ければ、それだけ時間がかかる。急ぎの用件があっても、移動にかかる時間そのものを大きく短縮するのは難しかった。
だが、空を飛べるなら話は変わる。
フローラは、そこで一つの可能性に気づいた。
「お姉様、王都とのやり取りに革命を起こすかもしれません」
「王都とのやり取り?」
セレスティアが聞き返した。
「はい。空を飛んで移動できるなら、伝令や書類の輸送に使えます。今まで馬車や人の足で移動していた距離を、最短距離で移動できるんです。王都との連絡も、今までよりずっと早くなるはずです」
「確かに……」
セレスティアは考え込んだ後、顔を上げた。
「それだわ。騎士団に練習させましょうか」
「言っとくが、女性しか使えないぞ」
アレンが釘を刺した。
「何でよ」
「男が箒を跨って空を飛ぶ姿を見たくないから」
「めちゃくちゃね」
セレスティアは呆れた。
「騎士団に女性団員いるわよ」
「ならこの衣装着せてね」
アレンは用意していた衣装を見せた。
「どうしてよ」
「形式美が大事だから」
「可愛い衣装ですね」
フローラは衣装を眺めて感想を口にした。
「伝令が可愛い必要ないわよ」
セレスティアは即座に突っ込んだ。
「嫌なら使わせないだけだから」
「仕方ないわね」
セレスティアは渋々ながらも受け入れた。
こうして、騎士団の女性団員たちが魔法の箒の練習を始めることになった。
最初はバランスを取るのに苦労したものの、練習を重ねるうちに、空を飛んで移動できるようになっていった。
そして、魔法の箒を使った伝令が始まった。
これまで馬車や徒歩で届けていた書類も、空を飛んで運べるようになった。道の状態を気にする必要もなく、目的地まで最短距離で移動できる。
その結果、王都とのやり取りは劇的に早くなった。
アレンはその様子を見ながら、ふと思った。
やっぱり宅急便じゃないか。




