空飛ぶ箒
アレンは考えていた。
ダンジョンの謎パワーと魔法。
この二つがあれば、空飛ぶ箒くらい作れるのではないだろうか。
思いついたら、さっそく実験である。
アレンは箒を用意すると、それに跨った。
右手に魔力を込める。
すると、浮遊の魔法が発動し、箒がふわりと地面から浮き上がった。
「おお、成功だ」
続いて左手に魔力を込める。
今度は風魔法が発動した。
「なるほど。これで前に進めるな」
あとは箒の角度を変えれば、向きを変えることもできるだろう。
細かい操作には練習が必要そうだが、原理としては十分に成立している。
「よし、完成だ」
アレンは満足げに頷いた。
そして、ふと思いつく。
「……これ、あいつらにやらせたら面白そうだな」
さっそく、お茶会のメンバーを集めることにした。
しばらくして、セレスティア、フローラ、クラリス、アリスが集まった。
「アレン、今日はどうしたの?」
「前に、人間が空を飛ぶアイデアを実現してみた」
「空を飛ぶ?」
クラリスが首を傾げる。
「これを使う」
アレンは一本の箒を見せた。
「箒で?」
「そうだ。空飛ぶ箒だ」
「……本当に飛べるの?」
セレスティアが不思議そうに箒を眺めた。
「実験では成功している」
「実験では、ということは、まだ実用化はしていないのね」
「細かいことは気にするな」
「気にするわよ!」
アレンは箒を数本取り出した。
「とりあえず、実際に乗ってみよう。ドレス姿じゃやりにくいだろうから、着替えてこい」
「全員分の着替えを用意してるなんて、準備いいわね」
セレスティアが感心する。
「みんな、着替えましょう」
フローラの声に、女性陣は用意された服を手に取った。
そして、着替えに向かう。
その様子を見送ったアレンは、アリスを呼び止めた。
「アリス、使い方は分かるな?」
「ええ。分かるけど……あれ、相当練習しないとバランスを取るのが難しいわよ」
「そうなのか?」
「そうなのよ。浮くだけならともかく、箒に跨った状態でバランスを保つのは簡単じゃないわ」
「悪戦苦闘する姿が見たいんだ」
「……趣味が悪いわよ」
アリスは呆れた顔をした。
やがて、女性陣が着替えを終えて戻ってきた。
「着替えてきたわ」
セレスティアたちは、動きやすい服装になっていた。
その姿を見たアレンは、ふと気になったことを口にした。
「スカート、短くないですか?」
クラリスが自分の服装を見下ろす。
「長いと邪魔だから仕方ない」
アレンはあっさりと言った。
「仕方ないですね」
フローラも納得したように頷いた。
女性陣はそれぞれ箒を手に取る。
「それじゃ、アリス。見本を見せてやれ」
「はいはい」
アリスは箒に跨った。
「浮遊だけでいいぞ」
「分かってるわよ」
アリスが魔力を込める。
すると、箒がゆっくりと浮き上がった。
地面から少しずつ離れ、アリスの体も一緒に浮いていく。
「こんな感じね」
アリスは難なく浮遊を維持していた。
その光景を見た女性陣は、驚きの声を上げた。
「そんな使い方なの!」
クラリスが目を丸くする。
「箒に跨って浮くだけなのね……」
セレスティアも驚いた様子だった。
「思ったより簡単そうに見えますね」
フローラが箒を眺める。
「見えるだけだぞ」
アレンが余計な一言を挟んだ。
「みんなもやってみろ」
「怖いです」
クラリスが箒を握りしめる。
「怖いわね」
セレスティアも慎重に箒を眺めた。
「怖いですね」
フローラも少し緊張しているようだった。
「最初から高く飛ぶ必要はない。まずは三十センチくらい浮くところから挑戦してみろ」
「いきます!」
クラリスが意を決して箒に跨った。
魔力を込めると、箒がふわりと地面から浮き上がった。
「浮きました!」
しかし、喜んだのも束の間だった。
「あっ、あれっ!?」
体が傾き、箒がぐらりと揺れる。
クラリスは慌ててバランスを取ろうとしたが、そのまま横に倒れてしまった。
「きゃっ!」
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です……。びっくりしました」
クラリスは起き上がりながら、悔しそうに箒を見つめた。
「悪くなかったぞ。何度かやればできるようになる」
「本当ですか?」
「浮遊自体はできていたからな。あとはバランスの問題だ」
「分かりました。もう一度挑戦します!」
クラリスは再び箒に跨った。
その様子を見て、フローラも挑戦する。
「それでは、私も」
魔力を込めると、箒が浮き上がった。
「浮きましたわ!」
だが、やはりバランスを崩す。
「きゃっ!」
フローラも地面に倒れ込んだ。
「うーん……難しいですわね」
「最初はそんなものだ」
アレンは楽しそうに頷いた。
続いて、セレスティアが箒に跨る。
「それでは、私もやってみるわ」
魔力を込める。
箒が浮き上がった。
「……っ!」
セレスティアは体を左右に振りながら、必死にバランスを保とうとする。
右に傾けば左へ。
左に傾けば右へ。
なんとか倒れずに耐えていた。
「おお、意外と頑張るな」
「意外とは余計よ!」
「その調子だ。失敗しないと面白くないな」
「今、何か言った?」
「いや、何も」
セレスティアが慎重にバランスを取っている。
アレンは少し考えた。
このまま成功されても面白くない。
「セレスティア、後ろにハチがいるぞ」
「えっ!?」
「きゃっ!」
セレスティアが驚いて振り返った瞬間、バランスが崩れた。
箒が傾き、そのまま地面へ。
「いたた……!」
セレスティアは起き上がると、すぐに後ろを確認した。
「……何もいないじゃない!」
「気のせいだった」
「絶対に嘘でしょう!」
セレスティアの鋭い視線を、アレンは涼しい顔で受け流した。
「まあ、これも練習の一環だ」
「あなた、あとで覚えていなさいよ……!」
それからも、女性陣は何度も挑戦を繰り返した。
最初は浮き上がるだけでも精一杯だったが、何度も失敗するうちに、少しずつコツを掴んでいく。
やがて、全員が三十センチほどの高さで浮遊を維持できるようになった。
「やりました!」
クラリスが嬉しそうに声を上げる。
「私もできましたわ!」
フローラも笑顔を見せた。
「ふう……ようやくね」
セレスティアも、ようやく安定して浮けるようになっていた。
アレンは満足そうに頷く。
「よし。浮遊さえできれば、移動は難しくない。風魔法で進んで、箒の角度を変えて方向を調整すればいい」
「……それ、本当に難しくないの?」
セレスティアが疑わしげに尋ねた。
「俺はできたぞ」
「あなたと私たちを一緒にしないでちょうだい」
「まあ、あとは各自で練習してくれ。箒は全員に上げるから」
アレンは、用意していた箒をそれぞれに渡した。
「使う機会が思いつかないけど、もらうわ」
セレスティアは箒を受け取った。
「私もいただきますわ。もう少し練習すれば、自由に飛べるようになりそうですもの」
フローラも嬉しそうに受け取る。
「私も練習します。次はもっと上手に飛べるようになります!」
クラリスもやる気満々だった。
そんな中、クラリスがアレンに向き直った。
「アレンさん、うまくなったところを見せてあげるわ」
「おう、期待してるぞ」
アレンは笑顔で答えた。
女性陣は、それぞれ箒を持って練習を続ける。
空飛ぶ箒は、どうやら実用化できそうだった。
ただし。
アレンが本当に期待していたのは、彼女たちが上手に飛べるようになることではなかった。
うまくいかないほうが、パンチラが見放題だ。
そんな不埒なことを考えているアレンの本心を、誰も知らなかった。




