空間拡張
「ねえ、アレン。どうしたの?」
セレスティアが、ダンジョンの一階層を見渡しながら声をかけた。
「何がだ?」
「一階層がどんどん広がっているのに、外から見たら何も変化がないじゃない。中に入ると明らかに広くなっているのに、外観はそのまま。いったいどういう仕組みなの?」
「ああ、そのことか」
アレンは、特に気にした様子もなく答えた。
「外から見たら萎んだ風船で、中に入ったら膨らんだ風船の中にいる。そう思えばいいんじゃないか?」
「……あってるの?」
「知らんがな」
「知らないのに、どうしてそんな自信満々に説明できるのよ!」
「いや、分かりやすい例えだろ?」
アレンは、改めて自分の説明を考えてみた。
外から見れば小さな空間なのに、中に入れば広大な空間が広がっている。
風船を膨らませれば大きくなるが、外側から見たダンジョンには変化がない。
厳密にいえば、風船そのものとは違うのだろう。
だが、イメージとしては悪くない。
「魔法のカバンだって、見た目と中に入る量が違うだろ。同じ感じじゃないのか?」
「ああ、確かにそうね」
セレスティアは納得しかけたものの、すぐに首を傾げた。
「でも、あれも仕組みが分からないのよね……」
「俺も分からんぞ」
「えっ?」
「日本にも存在しない技術だ。俺に聞かれても困る」
「じゃあ、なんで作れたのよ!」
セレスティアの声が響いた。
もっともな疑問だった。
アレンは、前世の知識を利用してダンジョンを発展させてきた。
しかし、空間を拡張する技術など、前世の日本でも一般的に使われていたわけではない。
魔法のカバンだって、どういう原理で見た目以上の荷物を収納できるのか、アレンには説明できなかった。
「魔法は全ての事象を都合よく説明してくれるのさ」
「……つまり?」
「ダンジョンの謎パワーを使えば、思いついたことはなんでも実現できる」
「無茶苦茶ね」
「そうでもないぞ。例えば、普通の建物を考えてみろ。部屋を広くしたければ、壁を取り払うか、建物そのものを大きくする必要がある」
「それはそうね」
「だが、ダンジョンなら違う。ポイントを使って空間を拡張すれば、外観を変えずに内部だけ広くできる。便利だろ?」
「便利なのは分かるけど、説明になっていないわよ」
「細かいことは気にするな」
「気になるわよ!」
セレスティアは頭を抱えた。
王国の常識から考えれば、建物の大きさと内部の広さは比例するものだ。
ところが、ダンジョンはその常識を平然と無視する。
しかも、アレンはそれを利用して一階層をどんどん拡張しているのだ。
「思いつく想像力が大事なんだ」
「想像力?」
「そうだ。こういう施設があったら便利だな、とか、この空間をもっと広くしたいな、とか。まずは想像する。実現できるかどうかは、そのあと考えればいい」
「なるほど……。つまり、ダンジョンの可能性は、私たちがどれだけ想像できるかにかかっているのね」
セレスティアは真剣な顔で頷いた。
ダンジョンの未知なる可能性。
それを引き出すのは、管理者の発想力なのだ。
「そういうことだ」
「アニメの知識で想像力なんて笑えるわ」
話に割り込んできたアリスが、冷ややかな目でアレンを見た。
「お前、今の話を聞いて何も思わなかったのか?」
「思ったわよ。アニメで見たものを、何でもダンジョンで再現しようとしている人が、偉そうに想像力を語っているなって」
「実際に実現してるんだからいいだろ」
「それはダンジョンの謎パワーのおかげでしょ!」
「その謎パワーを活用する発想が大事なんだ」
「都合のいい言い訳ね!」
アリスは呆れたようにため息をついた。
「そもそも、アレンが想像力を語るなら、私だって想像力には自信があるわよ。アニメの知識なら負けないんだから!」
「お前の場合、想像力の大半が食べ物とグッズとお金に向いてるだろ」
「失礼ね! もっといろいろ考えてるわよ!」
「例えば?」
「えーっと……」
アリスは腕を組んで考え込んだ。
数秒後。
「ダンジョンの中に、推しのグッズを飾る専用の部屋を作るとか!」
「それ、もう作れるだろ」
「じゃあ、グッズを無限に収納できる魔法のカバン!」
「それも作れるかもしれんな」
「でしょ!」
アリスは得意げに胸を張った。
「……お前、結局、自分の欲しいものしか考えてないじゃないか」
「何が悪いのよ! 自分の欲しいものを実現するのも、立派な想像力でしょ!」
「まあ、それは否定しないが」
「ほら!」
アリスが勝ち誇った顔をする。
セレスティアは、そんな二人のやり取りを見ながら、ふと何かを思いついたようだった。
「ねえ、アレン。だったら、ダンジョンの一階層を王都と同じくらいの広さにすることもできるの?」
「ポイントさえあれば、できるんじゃないか?」
「外からは小さな入口しか見えないのに、中には王都と同じ広さの空間がある……」
セレスティアの目が輝いた。
「それって、ものすごいことじゃない!」
「まあ、実際に広げてるしな」
「もっと広くしたらどうなるのかしら? 王国全土くらいなら……」
「待て待て。何を考えてるんだ」
「だって、想像力が大事なんでしょう?」
「そうだけど、実現するにはポイントが必要だからな!」
アレンは慌てて釘を刺した。
想像するだけなら無料だ。
しかし、実現するとなれば話は別である。
「なんだ、ポイントが必要なのね」
「当たり前だろ。何でもタダで実現できるなら、苦労しない」
「じゃあ、ポイントをたくさん稼げばいいのね」
「……セレスティア?」
「王国の発展にも役立ちそうだし、いろいろと考えてみるわ」
セレスティアは、すでに何かを計画し始めていた。
「おい、待て。俺のダンジョンを勝手に国家事業に組み込むなよ!」
「まだ何も言っていないじゃない」
「その顔は絶対に何か考えてる顔だろ!」
「ふふっ」
「笑って誤魔化すな!」
アレンの叫びが、一階層に響き渡った。
ダンジョンの謎パワーは、想像力次第で可能性を広げてくれる。
だが、想像力豊かな人間が周囲に増えすぎると、管理者の仕事が増えるという問題があった。
アレンは、そろそろ自分の想像力を発揮する方向性を考え直すべきなのかもしれなかった。




