冒険者ランク
アレンは、いつものようにマスタールームでくつろいでいた。
そこへ、セレスティアがやってきた。
「アレン、問題が起きているんだけど」
「なんだ、俺に関係することか?」
「冒険者のランクについてなんだけど」
「冒険者のランク? 進んだ階層でランク付けなんて、分かりやすくていいじゃないか」
アレンにとって、冒険者のランクは単純なものだった。
深い階層まで進める冒険者ほど強い。
強い冒険者ほど高いランクになる。
それで何が問題なのだろうか。
「ダンジョンの中ならね」
「どういうことだ?」
「冒険者には、ダンジョンの中でのランクと、外でのランクがあるのよ」
「なんでまた?」
「ダンジョンでは戦闘能力が重要だけど、外では戦闘能力以外も必要になるからよ」
「それで?」
「ダンジョンで活動する冒険者が増えて、外で活動する冒険者が減ったの」
「ああ、なるほど」
アレンはあっさりとうなずいた。
「外の依頼を冒険者が受けないのは、報酬が悪いからだろ」
「それもあるけど、もっと複雑なのよ。例えば、ダンジョンの中ではCランクなのに、外ではFランクという冒険者もいるの」
「……なんでだ?」
「ダンジョンの中では、強ささえあれば上の階層に進めるでしょう? でも、外のランクを上げるには、討伐依頼だけじゃなくて、護衛依頼や薬草採取など、いろいろな依頼をこなしてギルドへの貢献度を高める必要があるのよ」
「ああ、そういうことか」
アレンは納得した。
ダンジョンで活動する冒険者は、基本的に魔物の討伐を目的としている。
強くなれば、より深い階層へ進める。
より深い階層へ進めば、より価値の高い魔石を持ち帰れる。
つまり、強くなることが、そのまま収入の増加につながるのだ。
一方、外の依頼は違う。
護衛なら依頼人を守りながら目的地まで送り届けなければならない。
薬草採取なら、指定された薬草を見分けて集める必要がある。
どれだけ強くても、依頼人の護衛に失敗すれば意味がないし、薬草の知識がなければ目的のものを集められない。
冒険者としての能力と、冒険者としての実績。
その両方が求められるわけだ。
「アレンはずいぶん詳しいわね」
「テンプレだから」
「てんぷれ?」
「いや、こっちの話だ」
異世界の冒険者ギルドでは、よくある話だった。
戦闘能力を評価するランクと、依頼の実績を評価するランク。
それぞれに意味があるのは分かる。
だが、問題はそこではない。
「とりあえず、草むしりや溝掃除みたいな、冒険者の戦闘力に頼らない依頼は行政がやれ」
「……え?」
セレスティアが目を丸くした。
「行政?」
「そうだ。草むしりや溝掃除なんて、別に冒険者じゃなくてもできるだろ。わざわざ冒険者ギルドを通して依頼する必要があるのか?」
「でも、今までは冒険者が受けていたわよ?」
「だから何だ?」
「何だって……」
「冒険者は戦闘能力を持っている。それを生かせる仕事をさせろ。戦闘能力が必要ない仕事は、専門の人間を雇えばいい」
アレンは当たり前のことを言うように続けた。
「街の清掃なら清掃員を雇え。溝掃除なら土木作業員を雇え。薬草採取だって、知識のある採取専門の人間を育てればいい。護衛や魔物の討伐みたいに、冒険者の能力が必要な仕事に冒険者を回せばいいんだよ」
「でも、それでは冒険者の仕事が……」
「仕事がなくなるなら、別の仕事を作ればいいだろ」
「簡単に言うわね……」
「そもそも、ダンジョンで稼げるようになったのが原因なんだろ? だったら、外でしかできない仕事の報酬を見直すのも手だ。冒険者に仕事を受けてもらいたいなら、受ける価値がある条件を提示しろよ」
セレスティアは黙り込んだ。
確かに、冒険者がダンジョンに集中するのは、彼らにとって合理的な選択だった。
強くなれば稼げる。
危険を冒して外の依頼をこなすより、ダンジョンに潜ったほうが効率よく稼げるのなら、そちらを選ぶ者が増えるのは当然だ。
それを冒険者の問題として片付けるのは、筋が違う。
「……アレン、あなたって本当に発想が違うわね」
「そうか?」
「普通は冒険者ギルドに、どうやって冒険者を外の依頼に戻すか相談するところよ」
「なんで俺が冒険者ギルドの都合を考えなきゃいけないんだ?」
「それは……」
「冒険者がダンジョンで稼いでいるなら、それでいいだろ。外の仕事が必要なら、外の仕事をする人間を用意すればいい」
アレンは再び椅子に座った。
「それに、ダンジョンの中のランクと外のランクが違うのは、別におかしくないだろ。評価している能力が違うんだからな」
「……そうね」
セレスティアはうなずいた。
ダンジョンの中での実力と、冒険者としての総合的な実績。
それらを一つのランクで表そうとするから、話がややこしくなるのだ。
「なら、ランク制度そのものを見直す必要があるのかしら」
「いや、別に今のままでもいいんじゃないか?」
「え?」
「ダンジョン内のランクは戦闘能力の目安。外のランクは依頼を受けるための資格や実績。そう分けて考えればいいだろ」
「……なるほど」
「ただし、ダンジョンでCランクの冒険者が、外でFランクだからって、そいつをFランク相当の戦闘能力だと思うのはやめろよ。逆に、外で高ランクだからって、深い階層に進めるとも限らない」
「それは確かに問題ね」
「ランクなんて、何を評価しているのか分かればいいんだよ」
アレンはそう言って、話を終わらせた。
セレスティアは考え込んでいる。
冒険者ギルドの制度をどう変えるか。
行政が担うべき仕事は何か。
外の依頼の報酬をどうするか。
考えることは山ほどある。
しかし、アレンにとってはもう終わった話だった。
「じゃあ、俺はゲームに戻るから」
「アレン!」
「なんだよ?」
「あなたも少しは一緒に考えてちょうだい!」
「今、十分考えただろ!」
アレンの平穏な時間は、まだ戻ってこなかった。




