冒険者育成計画
アレンは冒険者学校で特別講師をしていた。
もっとも、アレンの立場は理事長である。
理事長が自ら教壇に立つのだから、生徒たちも真剣そのものだった。
「今日は冒険者として活動するうえで、重要なことを教えよう」
アレンは教壇に立ち、集まった冒険者たちを見渡した。
「まず、初めての階層に入ったときは、慎重に罠の有無を見極めることだ」
生徒たちは真剣に耳を傾ける。
「見た目には何もなくても、床や壁に仕掛けがあるかもしれない。不用意に進んで罠にかかれば、怪我をする可能性もある。場合によっては命に関わることだ」
「なるほど……」
「確かに、慎重に進むべきですね」
生徒たちが頷く。
アレンの言っていることは正しい。
冒険者が罠に注意するのは当然のことだ。
ただし、アレンには別の狙いもあった。
慎重に進めば、攻略にかかる時間は長くなる。
ダンジョン内で過ごす時間が長くなれば、それだけダンジョンの収益も増える。
冒険者の安全を守りながら、収益も増やす。
まさに一石二鳥だった。
「次に、ボスへの挑戦についてだ」
アレンは黒板にボスと書いた。
「ボスを見つけたら、積極的に挑戦しよう」
「えっ、危険ではないんですか?」
生徒の一人が質問する。
「もちろん、相手の強さを見極めることは大切だ。だが、いつまでも挑戦を避けていては成長できない」
「確かに……」
「それに、負けそうになったら逃げればいい。必ず逃げられるようになっているから、安心して挑戦するといい」
アレンは自信満々に説明した。
これも間違いではない。
ボスに挑戦することで、冒険者は自分の実力を把握できる。危険を感じたら撤退すればいい。
冒険者の育成という観点では、理にかなった指導だった。
ただし、アレンには別の目的があった。
ボスを倒されれば、討伐報酬を支払わなければならない。
それなら、冒険者には積極的に挑戦してもらいつつ、簡単には倒されないようにしたい。
負けそうになれば逃げられるのだから、挑戦すること自体に問題はない。
アレンはそう考えていた。
「最後に、パーティーについてだ」
アレンは黒板の文字を消し、新たに仲間と書いた。
「冒険者は一人で活動するより、仲間と協力したほうが安全な場合が多い。しかし、都合よく仲間が見つかるとは限らない」
「そうなんです。自分と実力の合う仲間を探すのは大変で……」
「そこで、冒険者斡旋所を利用するといい。自分の実力や目的に合った仲間を紹介してもらえる」
「そんな方法があったんですね!」
生徒たちの表情が明るくなった。
もちろん、アレンが紹介する冒険者斡旋所は、彼の息がかかった場所だった。
そして、そこにはアレンの部下であるドッペルたちが、冒険者として密かに登録されている。
仲間を探している冒険者に、ドッペルをパーティーメンバーとして紹介する。
ドッペルたちは冒険者として活動しながら、パーティーの行動や攻略状況をアレンに報告するのだ。
もちろん、ただ情報を集めるだけではない。
戦闘では仲間を助け、荷物運びも手伝い、必要なら撤退の判断も促す。
冒険者にとっても、頼りになる仲間だった。
誰も損をしていない。
少なくとも、表向きは。
「いいか、冒険者にとって仲間は大切な存在だ。互いに助け合い、信頼関係を築くことを忘れないように」
「はい!」
生徒たちの元気な返事が教室に響いた。
アレンは満足そうに頷く。
罠には慎重に対処させる。
ボスには積極的に挑戦させる。
仲間がいなければ、自分の部下を紹介する。
冒険者の安全と成長を考えた、実に素晴らしい教育方針だった。
そして、その裏では攻略速度の調整、討伐報酬の節約、冒険者の行動把握まで進んでいる。
アレンは教壇を降りながら、心の中で呟いた。
――うん、順調だ。
冒険者たちは今日も、アレンの教えを胸に刻んでいく。
こうして、アレンの冒険者育成計画は順調に進んでいた。




