ダイエット
アレンは、あることに気がついた。
アリスが、日々ふくよかになっているのだ。
毎日顔を合わせているからこそ、少しずつ変化していることに気がついた。
「アリス、最近太ったか?」
「失礼ね! 変わってないわよ!」
アリスは即座に否定した。
「そうか?」
「そうよ! 私は自分のことをよく分かってるんだから!」
「体重計あるぞ」
「……私は変わっていないと確信しているけど、念のためよ。念のため確認するだけだから!」
「誰に言ってるんだ?」
アリスは体重計の前に立つと、自信満々に乗った。
自分の認識が正しいことを確認するだけだ。
そう、確認するだけなのだ。
しばらくして。
「なんだこりゃー!」
「どうした?」
「体重計が壊れてるの!」
「壊れてねえよ」
「そんなはずないでしょ! だって、私は変わってないんだから!」
「事実を受け入れろ」
「そんなー!」
アリスは体重計を見つめたまま、膝から崩れ落ちた。
どうやら、自分が思っていた以上に現実は厳しかったらしい。
しばらくして、アレンが原因に思い当たる。
「毎日チーズケーキを食べてるのが原因じゃないか?」
「……」
「心当たりがあるんだな」
アリスは黙り込んだ。
毎日食べているチーズケーキ。
食後の楽しみであり、疲れたときの癒やしであり、もはや生活に欠かせない存在だった。
「チーズケーキが禁止されるぐらいなら、私はこの現実を受け入れるわ!」
「どうするんだよ」
「運動する!」
アリスは力強く宣言した。
チーズケーキをやめるつもりはない。
ならば、運動するしかない。
こうして、その日からアリスのダイエット生活が始まった。
まずはジョギング。
アリスは毎日走った。
最初はすぐに疲れてしまったが、毎日続けているうちに走ることにも慣れてきた。
「ふふん、これだけ走れば効果が出るはずよ!」
アリスは期待していた。
しかし、体重計に乗ってみても、思うような結果は出なかった。
「……おかしいわね」
もう少し続ければ変わるかもしれない。
そう考えて、さらに走り続けた。
だが、やっぱり効果が出ない。
「どうしてなのよ!」
アリスは頭を抱えた。
そこで、次は縄跳びを始めた。
ジョギングだけでは足りないのかもしれない。
もっと運動すれば、きっと結果が出るはずだ。
アリスは毎日跳んだ。
最初はうまく跳べなくても、諦めずに続けた。
これだけ頑張っているのだから、今度こそ大丈夫だろう。
そう思って体重計に乗った。
しかし、効果は出なかった。
「どうしてなのよー!」
アリスは頭を抱えた。
「運動してるんだから、すぐに結果が出るわけじゃないだろ」
「でも、こんなに頑張ってるのよ!」
「チーズケーキは?」
「毎日食べてるわ!」
「……そうか」
アレンは、それ以上何も言わなかった。
アリスがチーズケーキをやめるつもりがないことは、もう十分に分かっている。
とはいえ、本人は真剣に悩んでいるらしい。
アリスは腕を組み、しばらく考え込んでいた。
もっと効率よく運動する方法はないだろうか。
今までとは違う方法なら、結果が出るかもしれない。
そして、突然顔を上げた。
「そうだわ!」
「今度は何を思いついたんだ?」
「体からエネルギーをたくさん出す方法よ!」
「……何を思いついたんだ?」
「カロリー消費の裏技よ! アレン、付いてきて!」
アリスはアレンを連れて、ダンジョンの中を進んでいった。
そして、たどり着いたのは試練の廊下だった。
「ここなら体力を奪われるでしょ?」
「まあ、そうだな」
「体力が奪われるということは、エネルギーを消費しているということよね?」
「理屈は分かるが……」
「つまり、カロリー消費よ!」
「その理屈でいいのか?」
「いいの!」
アリスは自信満々だった。
これまでの運動とは違う。
ここなら、進むだけで体力を奪われる。
アリスにとっては、まさに理想的なダイエット方法だった。
「よし、さっそく試してくるわ!」
アリスは試練の廊下へと進んでいった。
体力を奪われながら、一歩ずつ進む。
普段なら厳しい試練も、今のアリスにとってはカロリーを消費するための運動だった。
「ふふふ、これなら効果が期待できそうね!」
アリスは満足そうに進み続けた。
その様子を見ていたアレンは、何とも言えない顔をしていた。
そもそも、本当にその理屈でいいのだろうか。
しかし、本人が納得しているのだから、もう何も言えなかった。
その後、試練の廊下は思いもよらない形で人気施設になった。
ふくよかな女性たちの間で、ダイエット効果があると評判になったのだ。
アリスが利用していると知った女性たちが、次々と試しに訪れるようになった。
体力を奪われながら廊下を進み、目標のラインを目指す。
挑戦を終えた女性たちは、満足そうな顔で帰っていった。
いつしか、試練の廊下は冒険者だけでなく、ダイエットに励む女性たちにも知られる施設となっていた。
アレンは、その光景を眺めていた。
「……なんでこうなるんだ?」
もともとは、アリスがチーズケーキを食べ続けるために始めたダイエットだったはずだ。
それが、どうしてこんなことになったのだろう。
アレンには、さっぱり分からなかった。
その隣で、アリスはチーズケーキを食べていた。
「運動した後のチーズケーキは最高ね!」
「お前、何も反省してないだろ」
「失礼ね! ちゃんと運動してるわよ!」
アレンは、もう何も言わなかった。




