ギルドでの認定
ある日、アレンのダンジョンに監察官がやってきた。
今回の目的は、新しく作られた十五階層の調査だった。
これまで、このダンジョンは十階層までだった。
一階層と二階層はGランク未満の見習い冒険者向け。
三階層から十階層まではGランク冒険者向け。
そして十階層のボスを倒すことで、Gランク冒険者はFランクへ昇格する資格を得られる。
十一階層から十四階層はFランク冒険者向け。
その先に新しく作られたのが十五階層だった。
ギルドとしては、この十五階層のボスがFランク冒険者にとって適切な強さなのか確認する必要があった。
監察官はダンジョンを進み、十五階層へ向かう。
アレンはマスタールームから、その様子を眺めていた。
「監察官が来たか」
十五階層は、これまでの階層とは少し違う。
そこには広い部屋が一つあるだけだった。
通路もない。
階段もない。
ボス部屋の先へ続く場所もない。
十五階層そのものが、ボスに挑戦するためだけの階層なのだ。
監察官がボス部屋へ入る。
その瞬間、部屋の奥から魔獣が飛び出した。
「!」
猫に似た姿をした魔獣だった。
しかし、その速度は普通の猫とは比べものにならない。
監察官が剣を振る。
だが、魔獣は一瞬で横へ飛んだ。
「速いな」
監察官が追いかける。
しかし、魔獣はさらに距離を取る。
そして次の瞬間には、監察官の横を一気に駆け抜けた。
「くっ!」
振り返る。
だが、すでに魔獣は部屋の反対側にいる。
アレンはその様子を眺めながら考えていた。
この魔獣は、地球にいたチーターをイメージして作った。
とにかく速い。
その代わり、攻撃力は低い。
「死なないように、でもちょっとくらい傷付いてもらおう」
簡単には倒せない。
けれど、一撃で冒険者が死ぬようなボスにもしたくない。
だから速度を極端に上げ、その代わり攻撃力を抑えた。
監察官は何度か攻撃を試みる。
しかし、なかなか当たらない。
追いかけても無駄だと判断したのか、やがて足を止めた。
剣を構えたまま、魔獣の動きを見る。
どこから近づいてくるのか。
どのタイミングで攻撃してくるのか。
何度も動きを確認する。
監察官は冒険者としての経験を使い、少しずつ魔獣の動きを読んでいった。
そして――
「そこだ!」
魔獣が飛び込んできた瞬間、監察官が剣を振る。
今度は魔獣を捉えた。
魔獣が距離を取る。
監察官は追わない。
再び構える。
そして、次の攻撃を待つ。
魔獣が走る。
監察官がタイミングを合わせる。
剣が魔獣を捉えた。
何度か攻撃を繰り返し、最後の一撃が入る。
魔獣が倒れた。
「……討伐完了」
監察官は息を整える。
多少の攻撃は受けたものの、大きな負傷はない。
攻撃力そのものは低い。
ただし、速度が非常に高いため、簡単には攻撃を当てられない。
経験の浅い冒険者なら、かなり苦戦するだろう。
しかし、動きを観察して対応すれば倒すことはできる。
そして監察官は、もう一つ確認する。
ボス部屋の入口だ。
戦闘中も扉は閉まっていなかった。
つまり、危険を感じた冒険者は、そのまま外へ戻ることができる。
十五階層にはボス部屋しかない。
ボスを倒せば、それで終わり。
倒せなければ、一度ダンジョンから出て、後日また挑戦することもできる。
監察官は十五階層の調査を終え、ダンジョンを出た。
その後、ギルドへ戻る。
「調査結果を報告します」
監察官はギルドマスターへ、十五階層のボスについて報告した。
「ボスの攻撃力は低めです。ただし、速度が非常に高く、攻撃を当てるのが難しい魔獣でした」
「Fランク冒険者なら?」
「十分に挑戦できる強さです。経験のある冒険者なら、動きを見切ることで討伐できます」
「危険性は?」
「攻撃力が低いため、致命的な危険性は低いでしょう。多少の負傷は考えられますが、ボス部屋の扉も閉まりません。危険だと判断すれば、途中で撤退できます」
ギルドマスターは報告を聞き、考える。
これまで十階層のボス討伐がFランク昇格の基準だった。
十一階層から十四階層はFランク冒険者向け。
そして十五階層には、その先の基準として使えるボスがいる。
ギルドは監察官の調査結果をもとに、アレンのダンジョンをEランクダンジョンとして認定することを決定した。
同時に、十五階層のボスを討伐することを、Fランク冒険者がEランクへ昇格するための資格条件とすることも決まった。
こうして、アレンのダンジョンは正式にEランクダンジョンとなった。
しかし――
そのことをアレンは知らない。
ギルドから誰かがやってきて伝えることもない。
ダンジョンの外で決められたことが、アレンのもとへ自動的に伝わる仕組みなど存在しないからだ。
アレンは今日もマスタールームからダンジョンを眺めていた。
「十五階層にボスを置いただけなんだけどな」
アレンは、自分のダンジョンがEランクに認定されたことを知らないまま、のんびりと過ごしていた。




