Eランクダンジョンに
アレンのダンジョンは、いつの間にか黒字になっていた。
冒険者が集まり、魔石や交換によってポイントが入ってくる。
アレンはそのポイントを次の階層を作るために貯めていたが、それでも余るほどの黒字だった。
「……結構、余ってるな」
マスタールームでポイントを確認しながら、アレンは呟いた。
ダンジョンの運営そのものは順調だった。
ただ、一つだけ気になることがある。
「上級冒険者は、定着してないんだよな」
十階層まで到達できるような上級冒険者も、このダンジョンにはやって来る。
しかし、彼らが何度も通うようになるわけではなかった。
上級冒険者が目当てにしているのは、十階層で手に入るインゴットだったり、宝くじだったりする。
宝くじは外れがなく、安定して価値のあるものが手に入る。
それは確かに魅力的だ。
だが、上級冒険者にとっては、それだけだった。
大きな危険を冒して莫大な利益を狙うのではなく、安定した利益を得るためのダンジョン。
それなら、わざわざ上級冒険者が定着する理由にはならない。
「まあ、仕方ないか」
アレンはあっさりと考えを切り替えた。
そもそも、このダンジョンは上級冒険者だけを集めるために作ったわけではない。
低層階では初心者冒険者が活動している。
一階層や二階層では、初めてダンジョンに挑戦する冒険者たちが魔物と戦っている。
三階層、四階層と進めば、新人冒険者の姿も増える。
そして五階層以降では、中級者冒険者が安定して活動していた。
「むしろ中級者には、かなり喜ばれてるんだよな」
『はい』
ダンジョンコアもそれを認める。
無理をしなくても安定して稼げる。
魔物が強すぎるわけでもない。
危険を冒して一攫千金を狙う必要もない。
そしてガチャには外れがない。
大儲けはできなくても、大損もしない。
冒険者として活動を続ける中級者にとって、それは大きな魅力だった。
初心者には初心者の居場所があり、中級者には中級者の稼ぎ方がある。
結果としてアレンのダンジョンは、中級者冒険者に最も喜ばれるダンジョンになっていた。
「なら、そろそろ次に進むか」
アレンはポイントの残高を見る。
次の階層を作るためのポイントは十分にある。
「十五階層を作ろう」
『十五階層ですか?』
「ああ。ここからEランクダンジョンを目指す」
ただし、今までの階層を変更するつもりはない。
一階層から十四階層までは、これまで通りだ。
初心者が活動できる場所も残す。
中級者が安定して稼げる場所も残す。
そのうえで、新しく十五階層を追加する。
「十五階層にはボスを置く」
『ボスを?』
「うん」
Eランクダンジョンにするなら、分かりやすい目標が必要だ。
十五階層まで到達した冒険者が挑戦する相手。
それがボスだ。
「ドロップ品は、他のダンジョンと同じようなものでいい」
アレンは報酬について考える。
「武器、防具、ポーション、マナポーション、アイテム袋」
『一般的なEランクダンジョンのドロップ品ですね』
「そう。それでいい」
変に珍しいものを用意する必要はない。
武器や防具は冒険者が使える。
ポーションやマナポーションは消耗品だから需要もある。
アイテム袋も冒険者なら欲しがるだろう。
「ただ、ボス部屋はどうする?」
アレンはふと考えた。
そこでダンジョンコアから、一般的なダンジョンの仕組みを聞く。
『通常、ボス部屋は冒険者が入ると扉が閉まります』
「やっぱり閉まるのか」
『はい。ボスとの戦闘に集中させるためです。ボスを倒すか、戦闘不能になるまで外へ出られない構造が一般的です』
「じゃあ、うちでは閉めなくていいな」
『閉めないのですか?』
「うん」
アレンは即答した。
「危なくなったら逃げればいいだろ」
わざわざボス部屋に閉じ込める必要なんてない。
ボスが強すぎたなら撤退すればいい。
もっと強くなってから、もう一度挑戦すればいい。
「冒険者が死なないように、ちゃんと撤退できるようにしよう」
『ボスとの戦闘から自由に離脱できるようにする、と』
「そういうこと」
アレンはさらに十五階層の構造を考える。
そこで、一つの結論にたどり着いた。
「十五階層はボス部屋だけでいいな」
『ボス部屋だけ、ですか?』
「そう。ボス部屋の先には何も作らない」
十五階層は、これまでの階層とは役割が違う。
探索するための階層ではない。
ボスに挑戦するための階層だ。
「十五階層に来たら、そのままボス部屋に入る」
『そして、ボスを倒しても先には進まない』
「うん」
ボスを倒したら、ドロップ品を手に入れて帰る。
倒せなければ、入口からそのまま帰る。
そして、また挑戦したければ十五階層まで来ればいい。
「これなら何度でも挑戦できるだろ」
『通常のダンジョンとはかなり違いますね』
「別にいいだろ」
アレンは気にしなかった。
「一回で倒せなかったなら、また挑戦すればいい」
最初はボスの強さを確認するだけでもいい。
戦ってみて勝てないと思ったら撤退する。
そして装備を整え、レベルを上げ、もう一度挑戦する。
ボス部屋の扉は閉まらない。
だから、危険を感じたらいつでも入口から出られる。
「無理して死ぬ必要なんてないからな」
アレンは設計を確認する。
一階層から十四階層までは今まで通り。
十五階層はボス部屋のみ。
ボス部屋の先には何もない。
ボス部屋の扉は閉まらない。
ボスを倒せばドロップ品を獲得できる。
倒せなければ撤退できる。
そして、何度でも挑戦できる。
「うん。これでいい」
アレンは満足そうに頷いた。
「今まで通り初心者や中級者も来られる。そこに、Eランクを目指す冒険者が挑戦できる場所を追加する」
安定して稼げるダンジョンという特徴は、そのまま残す。
ただ、その先に新しい目標を一つ用意する。
こうしてアレンのダンジョンは、十五階層にボスだけを配置した、Eランクダンジョンへと舵を切ることになった。




