他のダンジョン
宝くじ箱の当選発表が終わり、10階層に集まっていた冒険者達も少しずつ引き上げていった。
アレンはマスタールームに戻り、ダンジョンコアを眺めていた。
「なあ、ダンジョンコア」
『はい』
「他のダンジョンって、どんな感じなんだ?」
これまでアレンは、自分のダンジョンをどうやって発展させるかばかり考えていた。
冒険者が増えれば嬉しい。
滞在時間が増えれば嬉しい。
ガチャを回してくれれば嬉しい。
そんなことを繰り返しているうちに、いつの間にかダンジョンは14階層にまで成長していた。
しかし、他のダンジョンがどういう運営をしているのかは、ほとんど知らない。
「うちみたいに、冒険者がたくさん来るダンジョンって他にもあるのか?」
『存在します』
「へえ」
『ただし、ダンジョンマスターが存在するダンジョンは、あまり多くありません』
「ダンジョンマスター自体が珍しいのか」
『はい』
アレンは少し意外そうな顔をする。
「じゃあ、ダンジョンマスターがいるところは、みんな頭がいいのか?」
『そうとは限りません』
「そうなのか?」
『ダンジョンマスターは、強力なモンスターを配置することが多いです』
「強いモンスター?」
『はい。より強いモンスターを配置し、より強い冒険者を呼び込む方式です』
アレンは少し考えた。
「なるほど。強い敵がいるから、強い冒険者が来るのか」
『そのようなダンジョンは多いです』
「でも、強いモンスターって高いんじゃないのか?」
『ポイントを消費します』
「だよな」
アレンは腕を組む。
自分のダンジョンでも、モンスターや設備を用意するにはポイントが必要だ。
強いモンスターを大量に配置すれば、それだけ維持するための負担も大きくなる。
「それでもやるってことは、何か儲かる方法があるのか?」
『あります』
「聞かせてくれ」
『冒険者を倒した場合、大量のポイントを獲得できます』
「……なるほど」
アレンの顔が少し引きつった。
強力なモンスターを配置する。
強い冒険者を呼び込む。
冒険者を倒す。
そこで大量のポイントを得る。
そのポイントを使って、さらに強力なモンスターを配置する。
「そういう循環か」
『はい』
「……俺はやらないけど」
アレンは即答した。
わざわざ冒険者を倒してポイントを稼ぐ必要はない。
今のダンジョンには、冒険者が自分から来てくれている。
しかも、以前は誰も来なかったようなGランクダンジョンだったのが、今では中級冒険者だけでなく上級冒険者まで来るようになっている。
「じゃあ、強いモンスターを置いてるところが人気なのか?」
『人気のあるダンジョンには、別の傾向もあります』
「別の?」
『宝石や武器など、価値が分かりやすいドロップ品が出るダンジョンです』
「やっぱりそっちか」
アレンは納得した。
宝石なら売れる。
武器なら使える。
冒険者からすれば、非常に分かりやすい。
「魔法剣とか出すところもあるのか?」
『あります』
「魔法剣なんて出したら赤字にならないか?」
アレンにとっては、そちらのほうが気になる。
魔法剣を作るためには、それなりのポイントが必要になるはずだ。
一つ出すだけでも相当なコストになりそうだ。
『冒険者を倒すことで得られるポイントが大きいため、成立しています』
「……やっぱりそこに戻るのか」
アレンは頭を抱える。
強いモンスター。
強い冒険者。
冒険者を倒して大量のポイント。
そのポイントでさらに強力なドロップ品。
確かに仕組みとしては成立している。
「でも、俺のところとは全然違うな」
『そうですね』
「うちは冒険者を倒さないし、強いモンスターで無理やり攻略させるわけでもない」
むしろ逆だ。
冒険者が長く滞在してくれるようにする。
階層を分ける。
ガチャを置く。
宝くじ箱を置く。
冒険者が欲しがりそうな物を景品にする。
「人間が何を欲しがるか分からないと、今の運営は難しいよな」
『その通りです』
「知能が高いダンジョンマスターでも、人間の価値観が分かる奴はいないんだろ?」
『確認されていません』
「じゃあ、宝石や武器みたいな分かりやすい物に頼るのも当然か」
アレンは改めて考える。
宝石。
武器。
魔法剣。
どれも価値が分かりやすい。
だから冒険者を呼び込める。
だが、自分のダンジョンは違う。
魔法瓶。
テント。
ワイン。
アクアマリン。
そして冷蔵庫。
日本の物まで混ざっている。
「……よく考えたら、俺のところって結構めちゃくちゃだな」
『はい』
「そこは否定しろよ」
アレンは苦笑する。
しかし、結果だけを見れば、そのめちゃくちゃな運営でも冒険者は増えている。
12階層が混雑したから14階層まで作ることになった。
騎士団まで宝くじ箱に本気で応募している。
冒険者達は景品を楽しみにしている。
「強いモンスターを置いて、冒険者を倒してポイントを稼ぐより……」
アレンはダンジョン内を眺める。
今日も冒険者達が歩き回っている。
戦っている。
休憩している。
ガチャを回している。
そして、ダンジョンに滞在している。
「こっちのほうが楽だな」
アレンにとって重要なのはそこだった。
「やらんけど」
強いモンスターを用意して、命懸けの戦いをさせる。
冒険者を倒してポイントを稼ぐ。
そんな運営方法もあるらしい。
だが、アレンは今のやり方を変えるつもりはなかった。
「人が来て、勝手に遊んで、勝手に長居してくれる」
アレンは満足そうに頷く。
「俺はこのまま楽して暮らせればいいや」
今日もダンジョンは、冒険者達によって勝手に動いていた。




