侵入者
アレンのダンジョンに、急遽警報が鳴り響いた。
「コア、どうした?」
『侵入者です』
「侵入者?」
アレンは思わずモニターに目を向けた。
ダンジョンに侵入者が現れること自体は珍しくない。冒険者がやってくるのは日常茶飯事だ。
だが、今回は警報が鳴った。
つまり、いつもの冒険者とは違う何かが起きているということだ。
「他のダンジョンからの刺客か?」
『分かりません』
「分からないのか。とにかくモニターで探そう」
アレンはモニターを切り替え、ダンジョン内の様子を確認していく。
冒険者たちはいつも通りダンジョンを探索している。町も普段と変わらない。店は営業しているし、住民たちも平然と生活していた。
少なくとも、目に見える範囲では何も起きていない。
「……おかしいな。侵入者なんてどこにもいないぞ」
『警報は確かに侵入者を感知しています』
「町の中にも、それらしい奴はいない。いったい何なんだ?」
アレンは腕を組んだ。
侵入者というからには、何かしら異常な存在が入り込んだはずだ。しかし、モニターをいくら確認しても、それらしい姿は見つからない。
「コア、そもそも侵入者と冒険者がいるのは何か違うのか?」
『はい。冒険者がダンジョンを探索することと、侵入者を感知している状態では意味が異なります』
「具体的には?」
『侵入者を感知した状態で最下層のボスが倒された場合、侵入者はマスタールームに到達できます』
「……は?」
アレンの顔が引きつった。
つまり、侵入者がいる状態でボスを倒されると、マスタールームまでやってくる可能性があるということだ。
「待て。うちの最下層のボスって、クロノスだよな?」
『はい』
「クロノスが倒されたら……」
アレンの脳裏に、最悪の光景が浮かんだ。
クロノスが敗北し、侵入者がマスタールームまでやってくる。
そして、そこにいるのは戦闘能力のないダンジョンマスター、アレン。
『マスターの出番です』
「無理だ」
『マスターが戦うしかありません』
「無理です」
『マスターならば、きっと……』
「無理ですよ!」
思わず三段活用してしまった。
いや、無理なものは無理だ。
クロノスが負けるような相手に、アレンが勝てるわけがない。そもそも、アレンは自分のダンジョンを経営しているのであって、最前線で戦うためにダンジョンマスターになったわけではないのだ。
「……念のため、備えておくか」
『どのように備えるのですか?』
「子ダンジョンからダンジョンマスターを集める」
『承知しました』
アレンはすぐさま子ダンジョンに連絡を取り、ダンジョンマスターたちを招集した。
何が起きているのか分からない以上、できることはしておくべきだ。
クロノスが負けたときのことなど考えたくもないが、何も準備していない状態でマスタールームに侵入されたら、それこそ取り返しがつかない。
やがて、ダンジョンマスターたちが集まってきた。
「コア、侵入者は見つかったか?」
『はい。モニターに映します』
アレンが画面を見る。
そこに映し出されたのは――。
「……スライム?」
『はい。侵入者は一匹のスライムです』
「スライムって、あのスライムか?」
『冒険者の従魔になっているようです』
どうやら、冒険者が従魔にしているスライムが侵入者として感知されていたらしい。
アレンはしばらくモニターを見つめた。
他のダンジョンから送り込まれた刺客でもなければ、強大な敵が秘密裏に侵入してきたわけでもない。
ただの従魔だった。
「……なるほどな」
アレンは集まったダンジョンマスターたちを振り返った。
「マスター、全員で行きますか?」
「行かない」
即答だった。
「では、マスター一人で行ってきます?」
「その冒険者にやられたらどうするんだよ」
「そうでした。マスターはゴブリンリーダーに劣る戦闘力でした」
「事実を確認するように言うな!」
アレンは頭を抱えた。
侵入者の正体が判明したのはいい。問題は解決したと言っていいだろう。
だが、今回の件で一つだけ、はっきりしたことがある。
「コア、今後は従魔にも対策をする」
『どのような対策でしょうか?』
「従魔にはGPS付きのタグを取り付ける。ダンジョンに入るときに登録させろ。どこにいるのか分からないから、こんな騒ぎになるんだ」
『承知しました』
こうして、アレンのダンジョンでは従魔へのGPS付きタグの取り付けが義務付けられることになった。
侵入者警報から始まった大騒動。
その結末は、従魔の位置情報管理の徹底だった。




