ドッペルセレスティア
アレンはドッペルを使ってセレスティアに化けていた。
特に深い理由があったわけではない。
セレスティアの姿で町を歩いたら、どんな反応をされるのか。そんな好奇心から始めたことだった。
アレンは町へ出ると、のんびりと通りを歩き始めた。
すると、すぐに町の人から声をかけられた。
「セレスティア様!」
アレンが振り返ると、声をかけた人が嬉しそうに手を振っていた。
アレンも手を振り返す。
たったそれだけのことなのに、相手はまるで大きな幸運に恵まれたかのように喜んでいた。
さらに歩いていると、別の人からも声をかけられる。
アレンが手を振ると、やはり喜ばれた。
そんなやり取りを何度も繰り返しているうちに、アレンはあることに気づいた。
セレスティアは、想像していた以上に町の人たちから慕われているらしい。
ただ姿を見せて、手を振っただけでこれほど喜んでもらえるのだ。
(セレスティアの人気凄いな)
アレンは感心しながら町を歩き続けた。
普段、セレスティアと一緒にいるときには、ここまで意識することもなかった。
だが、こうして本人の姿になってみると、周囲の反応がよく分かる。
変装して町を歩くというのも、なかなか面白いものだった。
そんなことを考えていると、見覚えのある人物が目に入った。
アリスだった。
「こんにちはアリスさん」
「今日はまだ何もしてません」
(こいつ何をたくらんでるんだ)
アレンは警戒した。
アリスが何かを企んでいるときは、大抵ろくなことにならない。
それなのに、今日はまだ何もしていないと、わざわざ宣言してきた。
何もしていないのなら、そんなことを言う必要もないはずだ。
アレンはアリスの言葉を頭の中で反芻した。
いったい何を考えているのか。
気にはなったが、セレスティアの姿でアリスを問い詰めるわけにもいかない。
アレンはそのまま別れ、町を歩き続けた。
今度はフローラと出会った。
「フローラこんにちは」
「お姉様はお出かけですか?」
フローラは、セレスティアの姿をしたアレンに自然に話しかけてきた。
どうやら、こちらの変装を疑っている様子はない。
アレンは内心でほっとした。
身近な人間にまで疑われるようでは、変装して歩く意味がない。
「今用事があるのでまたね」
アレンはそう言って、会話を切り上げた。
フローラと長話をするつもりはなかった。
何しろ、今の自分はセレスティアなのだ。
普段の自分なら気軽に話せる相手でも、セレスティアの立場で話していると、妙な気を使ってしまう。
アレンはフローラと別れ、再び町を歩き始めた。
町の人たちからの反応は相変わらず良い。
セレスティアの姿で歩くだけで、こんなにも歓迎される。
最初はちょっとした好奇心だったが、思いのほか楽しめていた。
しかし、そんな気分も長くは続かなかった。
前方にエレナの姿が見えたのだ。
アレンは足を止めた。
エレナと会えば、何かと面倒なことになるかもしれない。
今の自分はセレスティアの姿をしているのだから、なおさらだ。
アレンは何も言わず、回れ右をした。
(そろそろ帰るか)
十分に町の様子も見られた。
これ以上、知り合いと顔を合わせる必要もないだろう。
アレンは帰ることに決め、来た道を戻り始めた。
ところが、そこで思いがけない人物が目に入った。
セレスティアだった。
アレンは、目の前にいる人物が誰なのかを認識した。
しかし、セレスティアの姿で町を歩いていたせいか、すっかり自分が変装していることを忘れていた。
そして、いつもの調子で話しかけてしまった。
「こんにちはセレスティア様」
「……………」
アレンは、そこでようやく自分の失敗に気づいた。
(本人だ)
目の前にいるのは本物のセレスティア。
そして、自分はセレスティアに化けている。
そのことを忘れて、本人に挨拶してしまったのだ。
アレンは自分の失敗を悟った。
町の人たちから歓迎され、アリスやフローラとも会話をし、最後には本人と鉢合わせる。
ちょっとした好奇心で始めたことだったが、最後に待っていたのは、いつものお仕置きだった。
アレンはまた正座させられていた。




