動物園
アレンは、ダンジョンランドに期間限定の動物園をオープンした。
動物園といえば、子供たちに人気の施設だ。
しかし、この世界には日本の動物園のように、さまざまな動物を一度に見られる場所はほとんどない。
そこでアレンは、日本の動物園にいる動物たちとそっくりなモンスターを召喚し、動物園を作ることにした。
象、キリン、ライオン、虎、パンダなど、定番の動物たちが勢揃いしている。
もちろん、普通のモンスターのように人間を襲うことはない。人間に危害を加えないように調整されており、子供たちも安心して動物を見学できる。
さらに、ただ動物を見るだけではなく、餌やりや乗馬、動物との触れ合いも楽しめるようにした。
オープン初日から、動物園は多くの家族連れで賑わっていた。
「ぞうさん、おっきい!」
象の展示場では、子供たちが大きな象を見上げていた。
象の体は大きく、長い鼻も迫力がある。
飼育員からリンゴを受け取った子供が、おそるおそる象に差し出した。
「食べてくれるかな?」
象は長い鼻を伸ばすと、器用にリンゴをつかみ、そのまま口に運んだ。
バリバリと音を立ててリンゴを食べる。
「わあ! 食べた!」
「もう一個あげたい!」
子供たちは大喜びだった。
象は次のリンゴを待つように鼻を伸ばしている。
その仕草が面白かったのか、子供たちは笑いながら餌やりを楽しんでいた。
親たちも、普段はなかなか体験できないことに子供が夢中になっている姿を見て、満足そうだった。
次に人気を集めていたのはキリンだった。
「デッカイ!」
「首、ながーい!」
キリンの展示場では、子供たちが首を思い切り上に向けていた。
キリンが高い場所にある葉を食べるたびに、子供たちから歓声が上がる。
目の前にいるキリンは、絵本や図鑑で見るよりもずっと大きい。
長い首に長い脚。ゆっくりと歩く姿も、子供たちには珍しいものだった。
「どうして首が長いの?」
「高いところの葉っぱを食べるためかな?」
親子でそんな会話をしながら、キリンの動きを眺めている。
動物を見るだけでも、子供たちにとっては立派な体験になる。
アレンが動物園を作った目的の一つは、こうした経験を子供たちにさせることだった。
そして、ポニーの乗馬コーナーも大人気だった。
小さな子供でも乗れるように、穏やかなポニーが用意されている。
スタッフに付き添われながら、子供たちが順番に背中へ乗っていく。
「ちょっと怖い……」
初めて乗る子供は、最初こそ緊張していた。
しかし、ポニーがゆっくり歩き始めると、表情が変わる。
「わあ、動いた!」
「お馬さん、歩いてる!」
一周して降りてきた子供は、満面の笑みを浮かべていた。
「もう一回乗りたい!」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
もちろん、親がすぐにもう一度乗せてくれるとは限らない。
「ほかの動物も見てからね」
「えー!」
子供たちの不満そうな声も、動物園ではよくある光景だった。
そして、動物園の人気者といえば、やはりパンダである。
「かわいい!」
「こっち向いて!」
パンダの展示場には、たくさんの人が集まっていた。
パンダはのんびりと座り、笹を食べている。
周囲がどれほど賑やかでも、本人はまったく気にしていない。
ただひたすら笹を食べ、時折姿勢を変える。
それだけなのに、見ている人たちは飽きないらしい。
「ずっと食べてるね!」
「お腹すいてるのかな?」
子供たちは、パンダの一挙一動に夢中だった。
アレンは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
どの展示場も賑わっている。
子供たちは楽しそうで、親たちも満足している。
期間限定とはいえ、動物園を作った甲斐があったというものだ。
しかし、園内を見回していたアレンは、ある展示場で足を止めた。
虎の展示場である。
立派な虎たちが、広い飼育スペースを歩き回っていた。
その中に、一匹だけ妙な生き物が混ざっている。
白虎だった。
たまだ。
虎たちが歩き回る中、たまは我が物顔でくつろいでいた。
虎が近くを通っても気にする様子はない。
むしろ、虎のほうがたまを気にしているように見える。
たまは一匹の虎を眺めたあと、満足そうにその場で丸くなった。
まるで、ここは自分の縄張りだと言わんばかりである。
子供たちは、虎の群れに混ざっている珍しい白虎に夢中だった。
「白虎ちゃんがいる!」
「虎さんと一緒にいるよ!」
「かわいい!」
虎よりも、たまのほうに注目が集まっている。
アレンはその光景を見て、額に手を当てた。
「なんでたまが混ざってるんだよ……」
もちろん、たまを動物園に展示する予定などなかった。
そもそも、たまは展示する側ではなく、勝手に入り込んだ側である。
しかし、本人はまったく気にしていない。
子供たちにかわいいと言われ、虎たちにも囲まれて、すっかり満足しているようだった。
アレンは追い出そうかとも考えたが、子供たちが喜んでいるのを見て思いとどまった。
「……まあ、いいか」
たまが大人しくしているなら、問題はない。
虎たちもたまに逆らう様子はないし、危険もなさそうだ。
そう判断して、アレンは次の展示場へ向かった。
ところが、問題はたまだけではなかった。
触れ合いコーナーでは、子供たちが犬たちと遊んでいた。
「わんちゃん、ふわふわ!」
「こっちの子もかわいい!」
子供たちは犬の背中を撫でたり、頭を撫でたりしている。
犬たちも人懐っこく、子供たちに撫でられるのを嫌がる様子はない。
その犬たちの中に、白が混ざっていた。
白は子供たちに撫でられるまま、じっと座っている。
頭を撫でられると尻尾を振り、別の子供が近づいてくると、そちらにも顔を向けた。
「このわんちゃん、おとなしいね!」
「いっぱい撫でても怒らないよ!」
子供たちは大喜びだった。
まさか自分たちが撫でている犬が、Sランクモンスターだとは夢にも思っていない。
白にとっても、子供たちに撫でられるのは悪くないらしい。
普段は強力なモンスターとして知られている白だが、今はただの人懐っこい犬にしか見えなかった。
子供の一人が、白の首元を優しく撫でる。
白は気持ちよさそうに目を細めた。
「ワン!」
子供たちは、その鳴き声を聞いてさらに喜んだ。
「お返事した!」
白は、すっかり触れ合いコーナーに馴染んでいた。
アレンは遠くからそれを見て、今度はため息をついた。
「お前まで何やってるんだ……」
しかし、白も子供たちに危害を加えるわけではない。
むしろ、子供たちに撫でられて満足しているようだ。
たまに続いて白まで勝手に混ざっている。
アレンは、もはや細かいことを考えるのをやめた。
そして、園内の一角にあるキツネたちの展示場へ向かった。
そこには、さらに理解しがたい光景が広がっていた。
九尾の狐が、キツネたちを従えていたのだ。
九本の尾を優雅に揺らしながら、キツネたちの中心に座っている。
周囲のキツネたちは、まるで女王に仕える家臣のように整然と並んでいた。
九尾の狐が顔を向ければ、キツネたちもそちらを向く。
九尾の狐が立ち上がれば、キツネたちも動き出す。
どう見ても、普通の動物展示ではなかった。
子供たちは、九本の尾を持つ狐に大興奮していた。
「しっぽ、いっぱい!」
「すごーい!」
「どうして九本もあるの?」
九尾の狐は、子供たちの歓声を聞いて満足そうに目を細めた。
キツネたちを従えている姿も、どこか誇らしげである。
どうやら、ここでも自分の立場を理解しているらしい。
アレンはその様子を見て、足を止めた。
「……何やってんだ、こいつら」
たまは虎の群れに混ざっている。
白は犬の触れ合いコーナーにいる。
九尾の狐はキツネたちを従えている。
誰も頼んでいないのに、好き勝手に動物園を満喫していた。
とはいえ、来園者は喜んでいる。
子供たちにとっては、珍しい動物が見られる楽しい場所だ。
アレンとしても、動物園の目的は達成できているので、わざわざ追い出す理由はなかった。
しかし、これでは動物園というより、仲間たちの自由行動を眺める場所になっている。
アレンは頭を抱えた。
「まあ、問題が起きてないならいいか……」
そう自分に言い聞かせ、動物園の様子を見回した。
象は子供たちからリンゴをもらい、キリンは高い場所の葉を食べ、ポニーには乗馬を楽しむ子供たちが並んでいる。
パンダも相変わらず笹を食べていた。
そして、たまも白も九尾の狐も、それぞれの場所で満足そうにしている。
動物園は大盛況だった。
ただし、そこから少し離れた場所では、別の問題が発生していた。
クロノスである。
クロノスは、園内の様子を遠くから眺めていた。
象もいる。
キリンもいる。
虎もいる。
犬たちもいる。
九尾の狐まで、キツネたちと一緒に楽しそうにしている。
たまも白も、すっかり動物園に馴染んでいた。
しかし、クロノスだけはどこにも混ざれなかった。
エンシェントドラゴンが動物園に紛れ込んだら、どう考えても目立ちすぎる。
子供たちが喜ぶ以前に、園内が大騒ぎになるのは目に見えていた。
かといって、普通の動物に紛れることもできない。
クロノスは、楽しそうな子供たちと、その中に混ざっている仲間たちを見つめた。
「……我も、混ざりたい」
寂しそうな呟きが漏れる。
しかし、クロノスが動物園に入れば、期間限定の動物園は別の意味で大騒ぎになるだろう。
クロノス自身も、それくらいは理解していた。
だからこそ、遠くから眺めることしかできない。
動物園では、今日も子供たちの歓声が響いていた。
そして、アレンは最後まで気づかなかった。
仲間たちが動物園を満喫する一方で、クロノスが仲間外れになって寂しがっていたことに。




