レーシングゲーム
アレンは、冒険者学校のVRについて考えていた。
VRを使えば、安全に戦闘経験を積める。実際の戦闘でしか得られないものもあるが、訓練施設としては十分に役立っている。
そんなことを考えていたアレンの頭に、ふと別のアイデアが浮かんだ。
「……ゲームセンターにあるレーシングゲームって、こっちでも作れるよな?」
別に戦闘訓練に使う必要はない。
純粋に娯楽として楽しむためのゲームだ。
そこでアレンは、セレスティア、フローラ、シャルロッテの三人を思い浮かべた。
以前、車に乗せたときの反応を思い出す。
あの三人なら、レーシングゲームでも十分に楽しめるのではないだろうか。
実際の車を運転するのは簡単ではない。速度を出せば危険も伴うし、そもそも運転技術を身につけるには時間がかかる。
しかし、ゲームなら話は別だ。
「どのゲームにするかな……」
アレンは悩んだ。
最初から本格的なレーシングシミュレーターを用意するべきか。それとも、アクセルとブレーキだけで操作できる簡単なものにするべきか。
初心者に複雑な操作を要求しても、楽しむどころではなくなってしまう。
まずは簡単なものから始めて、慣れてきたら本格的なものに移行するのがいいだろう。
「よし、最初は簡単なカートのレースゲームだな」
方針を決めたアレンは、さっそく三人を集めることにした。
セレスティア、フローラ、シャルロッテ。
そして、なぜかアリスもいた。
「……アリス、お前は何をしているんだ?」
「面白そうな気配がしたので!」
「気配で判断するな」
「でも、面白そうですよね?」
アリスはすでに興味津々だった。
アレンが何かを企んでいるとき、それが面白いことにつながる可能性は高い。そう判断したのだろう。
そして、アリスの予想は正しかった。
「まあいいか。五人でやろう」
こうして、五人によるカートレースが始まることになった。
◇
「これがゲームですの?」
セレスティアは、目の前のカート型の筐体を眺めていた。
「そうだ。ここに座って、画面を見ながら操作する。アクセルを踏めば前に進むし、ブレーキを踏めば減速する。あとはハンドルで曲がるだけだ」
「それなら簡単そうですわね」
フローラも頷いた。
「実際の車より、ずっと簡単そうですね」
「ゲームだからな。危険もないし、気軽に楽しめる」
シャルロッテも興味深そうに画面を見ている。
「それで、どうやって勝負するのですか?」
「コースを一周して、最初にゴールした奴が勝ちだ」
「分かりましたわ!」
三人とも、まだ余裕だった。
アレンはそれぞれの席を確認しながら、ゲームを開始した。
レースが始まる。
五台のカートが一斉に走り出した。
「まあ、簡単ですわね!」
セレスティアは順調にカートを走らせていた。
フローラもコースに沿って進み、シャルロッテも慎重にハンドルを操作している。
これなら、初心者でも十分に楽しめそうだった。
しかし、それは最初だけだった。
「きゃっ! 何ですの、これ!」
セレスティアのカートが突然滑り始めた。
路面に油がまかれていたのである。
ハンドルを切っても、思うように曲がらない。
「ちょっと、止まりなさい! 止まってくださいまし!」
もちろん、ゲームのカートが言うことを聞くはずもなかった。
「セレスティア様、そちらに行ってはいけません!」
フローラが叫んだ直後、彼女の前にも障害物が現れた。
「えっ? 何ですか、あれ!」
コース上に置かれた障害物を避けようとしたフローラは、ハンドルを切りすぎてコースの端へと突っ込んでいく。
「待って、待ってください! どうしてこんなところに障害物があるんですか!」
シャルロッテも必死だった。
普通に走っているだけなら問題はない。だが、次々と仕掛けられる妨害に対応できないのだ。
さらに、追い打ちをかけるような出来事が起きた。
「……え?」
自分のカートが突然、まばゆい光に包まれた。
シャルロッテの画面が光で覆われ、周囲の様子が分からなくなったのである。
「ちょっと! 前が見えません!」
彼女は慌ててハンドルを動かした。
その結果、カートはコースを大きく外れていった。
「何なのですか、このゲームは!」
セレスティアもフローラも、すっかりパニックになっていた。
さっきまで余裕だった三人の姿は、もうどこにもない。
一方、アレンとアリスは順調だった。
「アレン様、前に油がありますよ!」
「分かってる」
「右側に障害物です!」
「見えてる」
「じゃあ、左に行きましょう!」
「そうだな」
二人は妨害を避けながら、着実に順位を上げていく。
アレンはゲームの仕組みを理解していたし、アリスもこういう遊びには妙に勘がいい。
そして、レースは終わった。
一位、アレン。二位、アリス。
残る三人は、なんとかゴールまでたどり着いたという有様だった。
「……もう一度ですわ!」
セレスティアが悔しそうに声を上げた。
「次は勝ちます!」
フローラも負けず嫌いを発揮している。
「今のは操作に慣れていなかっただけです!」
シャルロッテも納得していない様子だった。
三人とも、すっかりゲームに夢中になっていた。
アレンはそんな三人を見ながら、ひとつのことを思った。
(……しまったな)
ゲームを始める前に、罰ゲームを決めておけばよかった。
勝者には何か特典を与え、敗者には罰ゲームを課す。
そうしておけば、もっと盛り上がったはずだ。
今から決めてもいいのだが、すでに一戦目は終わってしまった。
アレンは少しだけ後悔した。
もっとも、三人が次の勝負を要求している以上、まだチャンスはいくらでもある。
アレンは次のレースに向けて、静かに考え始めた。
次こそは、罰ゲームを忘れないようにしよう。




