冒険者学校
ダンジョンで得られる滞在ポイントは、滞在する者のレベルによって変わる。
レベルが高い者ほど、同じ時間ダンジョンに滞在していても得られるポイントは多い。冒険者と農民では、獲得ポイントに数倍の差が生じることもあった。
アレンは、この仕組みに目をつけた。
「冒険者のレベルを上げれば、ダンジョンで得られるポイントも増えるよな」
冒険者が強くなれば、より深い階層まで進めるようになる。そうなれば、ダンジョンで活動する時間も増え、結果として滞在ポイントの増加も期待できる。
冒険者にとっては実力を高める機会になり、ダンジョンにとっても利益になる。
双方にメリットがあるのだから、やらない理由はなかった。
こうして、アレンは冒険者学校を設立した。
学校の目玉は、現代の最新技術を導入したVR訓練である。
これまで、冒険者が戦闘経験を積むには、実際にモンスターと戦うしかなかった。初心者が経験を積もうとすれば、弱いモンスターを相手にするしかない。しかし、実戦である以上、相手が弱くても危険は伴う。
かといって、強いモンスターと戦えば、命を落とす可能性が高くなる。
経験を積まなければ強くなれないのに、経験を積むための戦闘そのものが危険なのだ。
この問題を解決するのがVRだった。
仮想空間の中で、さまざまなモンスターとの戦闘を経験できる。相手の動きを観察し、攻撃を回避し、仲間と連携して反撃する。
失敗しても命を失うことはない。
同じ状況を何度でも再現できるため、一度失敗した戦術を修正し、納得できるまで練習することも可能だった。
さらに、個人の技術だけでなく、パーティーでの連携も訓練できる。
前衛が敵の注意を引きつけている間に、後衛が攻撃する。回復役は仲間の状態を把握し、危険な状況になればすぐに対応する。
実際の戦闘では、失敗してから反省しても手遅れになることがある。
だが、VRなら失敗を経験として蓄積できる。
まさに画期的な教育方法だった。
冒険者学校は評判を呼び、入学希望者が次々と集まった。
それまで、冒険者になるための訓練といえば、先輩冒険者に教わるか、実戦を繰り返すのが一般的だった。
それに対して、冒険者学校では体系的な戦闘訓練を受けられる。しかも、危険を冒さずに経験を積めるのだから、人気が出ないはずがなかった。
生徒たちは授業を受け、VRで戦闘を繰り返した。
最初はモンスターの動きに翻弄されていた者も、次第に攻撃を見切り、仲間との連携を覚えていく。
卒業する頃には、初心者とは思えないほどの戦闘技術を身につけていた。
そして卒業後、彼らはクラスメイト同士でパーティーを組み、ダンジョンへ挑戦することになった。
互いの実力を知り、連携も十分に練習している。初対面の冒険者同士でパーティーを組むよりも、ずっと効率的なはずだった。
実際、彼らは順調に階層を進んでいった。
学校で習った戦術を実践し、危険なモンスターにも落ち着いて対処する。連携も取れており、個々の戦闘技術も高い。
冒険者学校の教育は成功だった。
少なくとも、二十階層に到達するまでは。
彼らは二十階層付近で、思うように先へ進めなくなった。
戦術が通用しないわけではない。個々の技術が不足しているわけでもない。
それなのに、実戦になると判断が遅れ、普段ならできるはずの行動ができなくなる。
VRでは敵の攻撃を見切っていた者が、実際のモンスターを前にすると体がすくむ。
仲間が負傷すれば焦り、予定していた戦術を忘れ、目の前の敵に意識を奪われる。
安全な仮想空間では、何度失敗してもやり直せた。
しかし、実際のダンジョンではそうはいかない。
判断を誤れば仲間が傷つく。自分が倒れれば、パーティー全体が危機に陥る。
そして、最悪の場合は命を失う。
頭では理解していても、その恐怖を本当の意味で理解することはできなかったのだ。
VRで身につけたのは、戦闘技術と戦術だった。
だが、命を懸けた戦闘で冷静さを保つ能力までは、十分に身につかなかった。
冒険者学校は盛況だった。
入学希望者は後を絶たず、卒業生も着実に増えている。戦闘技術の向上という点では、確かな成果を上げていた。
それでも、アレンが期待したほど冒険者のレベルは伸びていなかった。
学校で優秀な成績を収めた生徒たちが、実戦では二十階層付近で足踏みしている。
VRを導入すれば、冒険者の育成が一気に進むと考えていたアレンにとって、これは予想外の結果だった。
技術を教えることはできる。
知識を与えることもできる。
安全な環境で、何度でも戦闘経験を積ませることもできる。
だが、命を懸けた戦闘でしか得られないものもあるらしい。
冒険者学校は失敗ではない。
ただ、VRだけですべてが解決するほど、冒険者の育成は簡単ではなかった。




