ダンジョンへの敵対行為
世界各国で、一つの問題が起きていた。
冒険者の流出である。
アレンのダンジョンには、世界中から冒険者が集まっていた。
以前なら、自国のダンジョンを攻略していた冒険者たちが、より環境のいいダンジョンへ移動していく。
そして問題なのは、商人と冒険者では行動が違うことだった。
商人はダンジョンへ行く。
商品を売る。
商品を買う。
そして、商売を終えれば自分の国へ戻ってくる。
商人にとってダンジョンは、あくまで商売相手がいる場所だ。
ところが冒険者は違う。
ダンジョンへ行く。
そこで活動する。
収入を得る。
仲間を作る。
そして――。
戻ってこない。
「また冒険者がいなくなったぞ」
「王国のダンジョンへ行ったきり帰ってこない」
「うちの有力パーティーまで移動したらしい」
各国で、そんな話が出るようになった。
冒険者は一度アレンのダンジョンへ移動すると、そのまま定住してしまう。
ダンジョンが発展すればするほど、冒険者にとって住みやすい環境になる。
仕事がある。
仲間も見つかる。
生活に必要なものも揃っている。
わざわざ元の国へ戻る理由がなくなっていく。
各国も黙って見ていたわけではない。
冒険者を引き留めるための施策を考える。
待遇を改善する。
新しい施設を作る。
自国のダンジョンを発展させる。
しかし、簡単には流出を止められない。
そして、ついに痺れを切らした国が出た。
Yダンジョンを擁する国だった。
「冒険者の出入りを制限する」
国はそう決定した。
Yダンジョンの入口に人員を配置する。
冒険者については、国外へ出ることも、外から入ることも認めない。
一方、商人については条件付きで通行を許可した。
「商人は三日以内に戻ってくることを条件に通行を認める」
商売のためにダンジョンへ入ることは許す。
だが、冒険者は別だ。
国としては、冒険者の流出を防ぐことを優先した。
その判断が、アレンのもとに伝わった。
「……そうか」
アレンは報告を聞く。
そして、少し考えた。
「冒険者の自由を制限したのか」
「はい」
「なら、俺のダンジョンからYダンジョンへの移動も止める」
それは即座に実行された。
アレンは、Yダンジョンから自分のダンジョンへの移動を封じた。
理由は明確だった。
Yダンジョン側が冒険者の自由な移動を制限した。
それはアレンのダンジョンに対する敵対行為である。
ならば、こちらも対応する。
ただし、アレンがやったことは軍事的な攻撃ではない。
剣を向けたわけでもない。
兵士を送り込んだわけでもない。
ただ、ダンジョン同士の移動を止めただけだった。
しかし、その影響は大きかった。
「Yダンジョンへ行けない?」
「はい」
「商人は?」
「戻れません」
「……」
商人なら戻ってくる。
冒険者は戻ってこない。
だから制限した。
その結果――。
Yダンジョンは、アレンのダンジョンと繋がる国際的な移動網から外れることになった。
これまでなら、冒険者が自由に移動できた。
商人も移動できた。
各国のダンジョンを経由して、人と物が動いていた。
しかしYダンジョンだけ、その流れから切り離された。
各国はすぐに状況を理解した。
「Yダンジョンへの移動ができないのか」
「そうらしい」
「ということは……」
「国際的なダンジョン網から外れたということだ」
Yダンジョンを利用する人間にとっても問題だった。
別のダンジョンへ行きたくても、移動できない。
別の国の冒険者を呼びたくても、来てもらえない。
ダンジョンを経由した移動そのものが制限される。
そして、もう一つの問題があった。
とある国では、ダンジョンの外側で通行料を取る計画を考えている国もあった。
ダンジョンそのものでは通行料を取れない。
ならば、ダンジョンの外に検問所を作り、そこを通る人間から料金を取ればいい。
そんな考えだった。
だが――。
「ダンジョンへの敵対行為と認定された場合、移動そのものを止められるのか?」
「そのようです」
「……」
計画を立てていた国々は、すぐに見直しを始めた。
通行料を取る。
そのためにダンジョンの利用者を制限する。
もし、それが敵対行為と認定されれば、自国のダンジョンが国際的な移動網から切り離される可能性がある。
通行料どころの話ではない。
ダンジョンを利用する人間そのものが減る。
商人も、冒険者も、他国との往来も減ってしまう。
Yダンジョンを擁する国は、自国の冒険者流出を止めようとした。
しかし、その結果として自国のダンジョンが孤立することになった。
そして、この一件は各国に一つの認識を植え付けた。
――ダンジョンへの敵対行為。
その認定、第1号だった。




