冒険者の変化
アレンのダンジョンには、世界中から冒険者が集まっていた。
それは、ダンジョンの攻略だけが目的ではない。
アレンのダンジョンには、これまでの冒険者社会にはなかった環境が生まれていた。
冒険者同士が出会う。
それが当たり前になっていた。
これまでの冒険者パーティーは、一度組んだらメンバーを変えるのが難しかった。
仲間が怪我をして引退しても、簡単に代わりが見つかるわけではない。
同じランクで、同じような能力を持ち、さらに性格まで合う人間を探すとなれば、それだけで一苦労だ。
そのため、一度組んだパーティーは多少の不満があっても、そのまま活動を続けることが多かった。
ところが、アレンのダンジョンには冒険者が集まる。
世界中から人が来るのだ。
「前衛を探してるんだが」
「俺、空いてるぞ」
「回復役が欲しいんだ」
「それなら知り合いを紹介するよ」
今までなら何日、何週間とかけて探していた仲間が、簡単に見つかる。
それどころか、他のパーティーとの交流も活発になった。
パーティーの再編。
メンバーの入れ替え。
臨時加入。
新しいパーティーの結成。
冒険者同士の流動性が、一気に高まっていった。
そして、もう一つの変化が起きた。
職業ごとの評価が変わったのだ。
アレンのダンジョンは、普通のダンジョンとは違う。
危険な罠がほとんどない。
罠を解除する必要もない。
隠された通路を探す必要もない。
盗賊が得意としてきた仕事の一部が、必要なくなっていた。
「盗賊って、このダンジョンだと何するんだ?」
「……」
盗賊本人も答えに困る。
もちろん、偵察や索敵などの能力が役立つ場面はある。
だが、罠が少ない。
しかも、アレンのダンジョンでは、多少の失敗をしても命を落としにくい。
その結果――。
「盗賊、いらなくない?」
そんな評価まで出始めた。
逆に評価を上げた職業もある。
とにかく火力が高い者。
魔法で広範囲を攻撃できる者。
敵を一気に倒せる者。
アレンのダンジョンでは、普通なら大きな問題になる攻撃を受ける危険が比較的小さい。
紙のような防御力でも、死なない。
ならば、防御より攻撃に能力を振ったほうがいい。
「防御を捨てて火力に振るか」
「このダンジョンなら、それでもいいな」
「だったら攻撃力を上げたほうが効率がいい」
これまでの冒険者なら、そんな極端な考え方はしなかった。
死ねば終わりだからだ。
だが、アレンのダンジョンでは事情が違う。
安全性が高いからこそ、冒険者たちは自分たちの戦い方そのものを変えていった。
防御力より火力。
生存能力より殲滅力。
罠への対応能力より、目の前の敵を素早く倒す能力。
ダンジョンの環境が変われば、冒険者の評価基準も変わる。
そして、冒険者が大量に集まることで、もう一つの現象が起きた。
「お前、今日からパーティーから外れてくれ」
「え?」
いわゆる――追放である。
今までなら、追放したところで代わりの人間が見つからない。
だから簡単にはできなかった。
だが、アレンのダンジョンには冒険者がいくらでもいる。
自分たちより強い人間を探すこともできる。
不足している職業を探すこともできる。
パーティーの入れ替えが簡単になった結果、冒険者たちの間では、以前なら考えられなかったほど頻繁にメンバーが入れ替わるようになった。
そしていつしか――。
追放劇そのものが、一種の定番になっていった。
「お前は火力が足りない。今日で抜けてもらう」
「そんな……」
「このダンジョンじゃ、もっと火力のある奴を入れたほうが効率がいいんだ」
別の場所では。
「盗賊は必要ない」
「でも俺は――」
「このダンジョン、罠がないからな」
また別の場所では、新しいパーティーが結成されている。
冒険者社会は、アレンのダンジョンを中心に少しずつ変化していた。
職業の価値が変わる。
戦闘スタイルが変わる。
パーティーの組み方が変わる。
そして、冒険者たちは新しい環境に適応していった。
ただし。
その原因を作った本人は、そんなことを知らない。
「……」
アレンは今日もマスタールームにいた。
手にはコントローラー。
目の前にはレトロゲーム。
「よし、ここまで来た」
世界中の冒険者が集まっている。
パーティーの構成が変わっている。
職業の評価まで変化している。
追放劇まで流行している。
だが、アレンには関係ない。
「次はこのステージか」
アレンはゲームを続ける。
自分が作ったダンジョンによって、冒険者社会が大きく変わっていることなど知らない。
知ったところで、たぶん興味もない。
「……難しいな、これ」
今日もアレンは、マスタールームでレトロゲームを楽しんでいた。




