アニメオタク
アレンは、学園を訪れた際、一人の生徒が気になった。
授業についていけていない。
特に魔法の授業では、明らかに苦戦していた。
魔法を使おうとしても、うまく発動しない。
「……魔法が苦手なのか?」
教師に話を聞いてみると、どうやら魔法の才能がないわけではないらしい。
魔力は十分にある。
基礎も理解している。
それなのに、魔法をうまく発動できない。
アレンは少し考えた。
「俺も魔法は使えないんだけどな……」
そもそもアレン自身、魔法を使えるわけではない。
教える側としては、かなり説得力に欠ける。
だが、アレンには一つ思い当たることがあった。
魔法はイメージが大事。
よくある話だ。
師匠が目の前で魔法を使い、それを見た弟子が魔法の形を具体的にイメージできるようになって、ようやく自分でも魔法を使えるようになる。
転生者が最初から魔法を使えるという話も、似たようなものだ。
アニメや漫画で魔法を見ているから、魔法というものを具体的にイメージできる。
炎なら炎。
水なら水。
雷なら雷。
現代人なら、魔法そのものを知らなくても、映像として何度も見ている。
「……だったら」
アレンの頭に、一つの考えが浮かんだ。
「映画館で魔法が出てくるアニメを見せればいいんじゃないか?」
さっそく実行することになった。
「この魔法を覚えたいんです」
生徒が覚えたい魔法を選ぶ。
「じゃあ、これが出てくる作品を探そう」
映画館へ向かう。
大画面に映し出されるのは、魔法を使うキャラクターたち。
炎が飛ぶ。
水が渦を巻く。
雷が落ちる。
光が走る。
「……」
生徒は食い入るように画面を見つめている。
「よく見ておけ。魔法を使うときの動きも、魔法が発生する瞬間もな」
「はい!」
そして映画が終わる。
「じゃあ、今度は練習だ」
生徒は覚えたい魔法をイメージする。
だが、まだうまくいかない。
「もう一回見ればいい」
「もう一回ですか?」
「イメージが足りないなら、何度でも見ればいい」
アレンにとっては、それだけの話だった。
魔法を見てイメージする。
練習する。
うまくいかなければ、また見る。
そしてまた練習する。
非常に合理的な教育方法だった。
生徒も真面目だった。
何度も映画館へ通った。
魔法の映像を見て、練習する。
また見て、また練習する。
最初は、ただ魔法を覚えるためだった。
しかし、ある日。
「この作品、面白いですね」
「そうか」
「この魔法の演出、すごく好きです」
「魔法のイメージを掴むためだからな」
「こっちの作品も見たいです」
「覚えたい魔法があるのか?」
「……いえ」
「?」
「普通に見たいです」
アレンは少し考えた。
まあ、魔法の勉強になるならいいだろう。
「好きにしろ」
それからも生徒は映画館へ通い続けた。
魔法の練習も続けた。
そして、ついに――。
「できました!」
魔法が発動した。
「おお」
アレンも喜んだ。
教育は成功した。
魔法のイメージを映像で補う。
何度も見ることで具体的なイメージを作る。
そして実際に魔法を練習する。
効果はあった。
学園でも、その生徒の魔法の成績はみるみる上がっていった。
教師たちも驚いた。
本人も喜んでいた。
すべて順調だった。
ただ、一つだけ問題があった。
「アレンさん、新作が公開されたので見に行ってきます!」
「また魔法の勉強か?」
「いえ、今回は普通に見たいだけです!」
「……そうか」
さらに数か月後。
「この作品の魔法演出が最高なんですよ!」
「……」
「この作品の設定も面白くてですね!」
「……」
「あと、この作品の――」
アレンは黙って話を聞いていた。
目の前の生徒は、以前とは別人のように生き生きとしている。
魔法も使えるようになった。
成績も上がった。
問題はない。
問題はないのだが。
「……」
アレンは、映画館のパンフレットを大量に抱えた彼女を見た。
「……すまん」
「何がですか?」
「俺が映画を見せたせいだな」
「?」
彼女は首を傾げる。
本人は気づいていない。
魔法を覚えるために始めたアニメ鑑賞。
それを繰り返した結果――。
彼女は立派なアニメオタクになっていた。




