真実の口
聖剣を台座に刺した。
誰でも挑戦できて、抜けたら貰える。
最初はただの思いつきだった。
ところが、これが予想以上に人を集めた。
聖剣を見に来る者。
自分なら抜けると思って挑戦する者。
挑戦している人を見物する者。
十階層は、すっかり一つの観光名所になっていた。
そして、その隣にアレンは願いの泉まで作った。
池に小銭を投げ入れて、願い事をする。
これも人々の間に定着し始めている。
その様子を眺めていたアレンは、あることに気づいた。
「……観光名所って、いろいろ作っていいんだな」
聖剣だけで終わらせる必要はない。
せっかく人が集まっているのだから、他にも楽しめるものを置けばいい。
アレンの頭の中で、次々とアイデアが浮かんでくる。
「見るだけじゃなくて、実際にやってみるものも欲しいな」
挑戦できるもの。
記念になるもの。
誰かと一緒に楽しめるもの。
そう考えているうちに、アレンは前世の記憶を思い出した。
「……そうだ」
頭に浮かんだのは、大きな石の顔だった。
大きく開いた口。
そこに腕を入れる観光名所。
「真実の口だ」
嘘をついている者が口の中に手を入れると、腕を食われる。
もちろん本当に食われるわけではない。
ただ手を入れて楽しむだけの観光名所だ。
「これなら、この世界でも受けそうだな」
アレンはすぐに作り始めた。
十階層の一角に大きな石の顔を設置する。
口を大きく開けさせ、腕を入れられるようにする。
見た目も、それらしく仕上げた。
「うん。いい感じだ」
アレンは満足する。
だが、そこで一つ問題があった。
せっかくなら、最初に誰かに試してもらいたい。
誰でもいいわけではない。
アレンは考える。
セレスティアは警戒心が強い。
何かあると分かった瞬間に、アレンの企みを疑うだろう。
リリアなら、怪しいと思った時点で腕を入れない可能性が高い。
ならば――。
「クラリスだな」
真面目だから、ちゃんと付き合ってくれる。
そして何か起きたと思えば、真剣に心配してくれる。
「絶対面白い」
アレンは確信した。
アリスを連れてクラリスのところへ向かう。
「クラリス」
「はい?」
「新しく出来た観光名所があるんだ」
「またですか?」
クラリスは少し呆れた顔をする。
最近のアレンは、新しい観光名所を作ることに妙に熱心だ。
「聖剣の次は何です?」
「見れば分かる」
「……嫌な予感がします」
「大丈夫だ」
「アレンの『大丈夫』は信用できないんですが」
そんな会話をしながら、三人は十階層へ向かった。
そして、クラリスは目の前にある巨大な石の顔を見て立ち止まった。
「……これは?」
「真実の口だ」
「真実の口?」
「ああ」
アレンは簡単に説明する。
「ここに腕を入れる」
「腕を?」
「そうだ。嘘をついていたら腕を食われる」
「……」
クラリスが真実の口を見る。
次にアレンを見る。
「本当に?」
「観光名所だ」
「それなら、最初からそう言ってください」
クラリスが呆れる。
アレンは真実の口の前に立った。
「まあ、見ていれば分かる」
そして腕を口の中へ入れる。
「俺は覗き見なんてしてないぞ」
「何の話ですか?」
クラリスが首を傾げる。
「俺は本当に覗き見なんてしてない」
「だから、何を――」
突然、アレンが叫んだ。
「うわああああ!」
「えっ!?」
「腕が!」
アレンは必死に腕を引っ張る。
「食われた! 抜けない!」
クラリスが慌てる。
「アレン様!」
するとアリスも、すぐに演技に乗った。
「大変です! 助けないと!」
「アリスまで!?」
クラリスは真剣な顔でアレンを掴む。
「引っ張ります!」
「頼む!」
「せーの!」
「うおおおお!」
クラリスが一生懸命アレンを引っ張る。
「もう一度!」
「はい!」
「せーの!」
ぐいっ!
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「抜けました!」
クラリスが喜んだ。
だが、次の瞬間。
「……え?」
クラリスの顔が青ざめる。
アレンの腕がなくなっていた。
「アレン様……腕は?」
もちろん、袖の中に隠しているだけだ。
しかし、クラリスは本気で心配していた。
「大丈夫ですか!?」
アレンはそろそろネタばらしをすることにした。
袖の中から手を出す。
「ちゃんとあるぞ」
「…………」
クラリスが固まる。
「袖の中に隠していただけだ」
「……アレン!」
ぽかっ。
「痛い」
ぽかっ。
「ちょっと待て」
ぽかぽかぽか。
「本気で心配したんですよ!」
「悪かったって!」
アリスが呆れた顔で言う。
「アレン様、そのセリフのチョイスはないんじゃないですか?」
「……」
アレンは黙った。
「俺は覗き見なんてしてないぞ」
確かに、真実の口の最初の一言としては、あまりにもおかしい。
アレンは自分で自分の墓穴を掘っていた。
「……また自爆したな」
アリスが呟いた。




