備え付けの家電
屋敷で使われている家電は、セレスティアたちにとってもすっかり馴染みのあるものになっていた。
最初は見慣れない道具だった。
しかし、一度使ってしまうと、その便利さを知ってしまう。
いちいち魔法を使う必要がない。
スイッチを入れれば動く。
しかも、毎日の生活で使うものほど、そのありがたさを実感する。
セレスティアは屋敷にある家電を眺めながら、以前よりも明らかに長く視線を向けるようになっていた。
「アレン屋敷にある家電はダンジョンでしか使えないの?」
セレスティアが聞いてきた。
ダンジョンの中だから使えるものなのか。
それとも、外でも使えるのか。
そこが気になったらしい。
もし外でも使えるのなら、自分の領地や王都でも使いたい。
そう思うのは当然だった。
「私も国に持って帰りたいです」
クラリスも聞く。
クラリスにとっても、屋敷で使われている家電は魅力的だった。
国に持ち帰れば、自分だけでなく、周囲の生活も変わるかもしれない。
便利な道具というのは、一度知ってしまうと元の生活には戻りにくい。
今までなら当たり前だと思っていた作業が、家電を使えば簡単に終わってしまう。
それを自分の国でも使いたいと思うのは自然なことだった。
「魔石入れたらダンジョンの外でも動くようにしてるぞ」
アレンはあっさり答えた。
その一言を聞いて、セレスティアとクラリスの目が変わった。
ダンジョンの中だけで使えるのではない。
魔石さえ入れれば、外でも使える。
それなら話は変わってくる。
持ち帰ることができる。
自分の国でも使える。
そして、便利さを知っている二人だからこそ、その価値も分かっている。
「実家に帰らせていただきます」
突然、セレスティアが言った。
「なんか嫁を怒らしたみたいな会話になってきたぞ」
アレンは思わず突っ込んだ。
家電が外でも使えると説明しただけなのに、なぜか話がおかしな方向へ進み始めている。
「私もお土産に持って帰ります」
クラリスは当然のように言った。
便利なものなのだから、持って帰りたい。
その気持ちはよく分かる。
しかし、アレンは一つ問題を指摘する。
「持って帰るのは構わないが非売品だから家になくなってもいいのか?」
屋敷に備えつけられているものなのだから、持ち出せば当然その分だけ屋敷からなくなる。
便利だからこそ、なくなれば困る。
クラリスは持ち帰った後のことを考えた。
そして、すぐに結論を出した。
「持ち出すのは諦めます」
便利なものを持って帰りたい。
しかし、屋敷からなくなるのも困る。
その二つを天秤にかけた結果だった。
だが、セレスティアは別の結論にたどり着いた。
「販売しなさいよ」
持ち出してはいけないのなら、買えるようにすればいい。
実に単純な話だった。
セレスティアとしては、自分の領地でも使えるなら、それに越したことはない。
便利なものを知ってしまった以上、欲しくなるのも仕方がない。
「屋敷に備えつけの家電だからな」
アレンは販売する気がない。
セレスティアはアレンを見る。
アレンもセレスティアを見る。
クラリスは二人のやり取りを見守っている。
家電を売るか売らないか。
話はそこで止まった。
そして、セレスティアは別の方向から攻めることにした。
「エレナのお尻にほくろはある?」
「ある」
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙が落ちた。
アレンは自分が即答したことを理解する。
セレスティアも、答えを聞いて理解した。
そして、何も言わない。
ただ、アレンを見る。
アレンも何も言わない。
しかし、この沈黙が何を意味しているのかは分かる。
「売ってくれるわね」
「検討させて頂きます」




