名前判明
アレンとアリスは、セレスティアと王妃様、そして前聖女のお茶会の給仕をしていた。
マスタールームに用意されたテーブルには、人数分の紅茶と菓子が並べられている。
こうして見ると、かなり豪華な顔ぶれだった。
王国の実務を担うセレスティア。
この国の代表である王妃様。
そして、つい先日まで前聖女と呼ばれていた人物。
アリスは給仕をしながら、何となく三人を見比べていた。
よく考えれば、とんでもないメンバーである。
それなのに、本人たちはいたって普通にお茶を飲んでいる。
最初に口を開いたのは、前聖女だった。
「この度ダンジョンに赴任しますエレナです」
改めて名乗ったエレナは、丁寧に頭を下げる。
セレスティアも、それに合わせて自己紹介をした。
「セレスティアよ。王国の実務を担当してます」
王国の実務を担当している。
その言葉に、アリスは少しだけ苦笑する。
本人はさらっと言っているが、実際には王国のかなりの部分を動かしている。
続いて王妃様が自己紹介をする。
「この国の代表をしてるシャルロッテよ」
「お久しぶりです」
エレナが王妃様に向かって頭を下げる。
どうやら二人は以前から面識があるらしい。
そのやり取りを聞いていたアレンは、ふと手を止めた。
「……」
シャルロッテ。
エレナ。
アレンは二人の名前を頭の中で繰り返す。
そこで、あることに気づいた。
今まで王妃様の名前を知らなかった。
そして前聖女の名前も知らなかった。
ずっと「王妃様」と「前聖女」と呼んでいたので、名前を知る必要がなかったのだ。
「王妃様ってシャルロッテだったのか」
アレンが小さく呟く。
王妃様――シャルロッテは、そんなアレンを見て少し笑った。
「今さらですか?」
「今まで聞いたことなかったからな」
「そうでしたか」
シャルロッテは特に気にした様子もない。
アレンにとっては、それだけの話だった。
そして、もう一人。
「エレナ……」
アレンも名前を覚える。
すると、そのエレナがアレンをじっと見た。
「ところで、この執事から魔を感じますね」
「……」
アレンは黙った。
エレナはどうやら、執事の姿になっているアレンから魔力を感じ取ったらしい。
しかし、セレスティアは特に驚くこともなく答える。
「ダンジョンマスターの代理様ですから」
「そういうことですか」
エレナは少し考える。
そしてアレンを見る。
「あなた方が問題にしてないならいいでしょう」
「まあ、そういうことだ」
アレンも普通に返した。
アリスはその二人の会話を聞きながら、心の中で思う。
普通なら、執事から異常な魔力を感じたらもっと騒ぐところだ。
しかし、この場にいる人間は全員、ある程度の異常には慣れている。
そんな中、アレンはエレナが持っている杖に気づいた。
見覚えのある杖だった。
「俺があげた杖使ってくれてるんだな」
エレナが手にしているのは、アレンが渡したレーヴァテイン・ロッドだった。
エレナは杖を見る。
そして、しっかりと握り直した。
「これは誰にも渡しません」
即答だった。
その言葉に、アレンは少し嬉しそうにする。
「勇者も剣を大事にしてくれてたしいいことしたな」
自分が渡した武器を、二人とも大切に使っている。
アレンとしては、それだけで満足だった。
武器を渡した甲斐があったというものだ。
エレナも、レーヴァテイン・ロッドを手放すつもりはないらしい。
そんな様子を見ていたアリスは、ふと気になった。
この人、もらったものをかなり大事にするタイプなのかもしれない。
そんなことを考えていると、アレンがまた別のことを思い出した。
「俺があげた屋敷はどうだ」
エレナがダンジョンへ赴任することになったため、アレンは屋敷を用意していた。
ダンジョンの中に住むのだから、生活に困らないようにするためだ。
「使いやすくていいですね」
エレナは素直に答える。
「そうか」
アレンも満足そうに頷いた。
屋敷が使いやすいなら、それでいい。
ところが、その話を聞いていたセレスティアが、ふと口を挟んだ。
「帝国の皇女のステラには与えませんでしたわね」
「……」
アレンがセレスティアを見る。
「エレナには屋敷をあげたのに、ステラにはあげてませんね」
「ああ」
アレンは少し考える。
そして、あっさり答えた。
「屋敷は与えないが区画は使っていいぞ」
「世界に繋がった今ステラにあげたら各国からくれと言われるわよ」
以前とは事情が違う。
ダンジョンには、もう王国だけではなく世界中から人が訪れる。
その中で帝国の皇女だけに屋敷を与えたとなれば、他国からも当然のように要求が来るだろう。
アレンは少し考える。
そして、いつものように妙な結論を出した。
「顔面偏差値80ないと無理と言えばいいよ」
「あなた世界を敵に回すわよ」
セレスティアが即座に返した。
「なんでだ?」
「理由がひどすぎます」
自分としては、住む場所が必要だったから用意しただけだ。
王妃様――シャルロッテはそんな四人のやり取りを眺めながら、静かに紅茶を飲んでいる。




