SSSランクの実力
ケルベロスを倒した二人は、そのまま61階層へ向かった。
ここから先も、リリアは前聖女と共に進んでいく。
61階層。
到着した二人の前に、さっそくモンスターが現れた。
前聖女は何も言わず、結界を張る。
そして、そのまま歩き始めた。
「……?」
リリアは一瞬、足を止めそうになった。
モンスターがいる。
しかも、ここは61階層だ。
出てくるのはSランクモンスター。
普通なら、警戒して戦闘態勢に入るところだ。
しかし、前聖女は違った。
モンスターを見ても、特に反応しない。
そのまま進んでいく。
モンスターが二人に気づいた。
当然のように襲いかかってくる。
モンスターが結界へ向かって拳を叩きつけた。
ドンッ!
結界が大きく揺れる。
それでも、破れない。
モンスターはさらに攻撃を繰り返す。
ドンッ!
ドンッ!
ドンッ!
しかし、結界はびくともしない。
前聖女は振り返ることすらしなかった。
そのまま歩いていく。
まるで、低レベルモンスターなど最初から相手にしていない。
そんなスタイルだった。
「……」
リリアは無言で前聖女の背中を見る。
相手はSランクモンスターだ。
決して弱いわけではない。
むしろ、普通の冒険者なら一体を相手にするだけでも命懸けになるような相手だ。
それを――。
無視している。
攻撃されても、結界で防ぐ。
そして進む。
それだけだった。
62階層。
63階層。
64階層。
二人はどんどん進んでいく。
モンスターが現れる。
前聖女が結界を張る。
モンスターが殴る。
結界は破れない。
二人は進む。
またモンスターが現れる。
また結界を張る。
そして進む。
戦闘らしい戦闘がない。
リリアは、次第に前聖女の存在が恐ろしくなっていた。
ケルベロスのときもそうだった。
杖で殴った。
そして押さえ込んだ。
今度はSランクモンスターを無視して進んでいる。
強いとか、弱いとか。
そういう次元の話ではないように思えてくる。
やがて69階層へ到着した。
「……」
リリアは周囲を見る。
ここまで来る間に倒したモンスターは――。
一体もいない。
「69階層まで一体も倒してない」
リリアは改めて口にした。
61階層から69階層まで。
Sランクモンスターがいる階層を、前聖女は一体も倒さずに進んできた。
結界を張って、無視して歩いただけだ。
「まさか一日で着くとは」
リリア自身、ここまで早く到達するとは思っていなかった。
普通なら、途中で何度も戦闘になる。
傷を負うこともある。
休憩だって必要になる。
それなのに、前聖女にはそんなものがない。
ただ歩いているだけだった。
「ヒュドラ倒したら一度帰ってホテルで寝ますか」
前聖女が、何でもないことのように言った。
リリアは前聖女を見る。
これから70階層のヒュドラと戦う。
それなのに、前聖女の言葉には緊張感がなかった。
まるで、ヒュドラを倒すことが決まっているようだった。
負けるという選択肢がない。
そんな雰囲気だった。
リリアは、その姿を見ながらふと思う。
どこかで聞いたことがあるような気がする。
「……なんかメジャーリーグで聞いたような」
しかし、思い出せない。
そもそも、今考えることでもない。
二人は70階層へ進んだ。
そして、70階層のボス部屋の前に立つ。
この先にいるのはヒュドラ。
これまでのモンスターとは違う。
70階層のボスだ。
二人はボス部屋の扉を開いた。
扉が開いた瞬間だった。
ヒュドラが二人を確認する。
そして、いきなり先制攻撃を仕掛けてきた。
大量の毒が二人へ向かって吐き出される。
しかし――。
「浄化」
前聖女の魔法によって、毒が消えた。
続けて結界が展開される。
毒を防ぎながら、前聖女はヒュドラへ近づいていく。
リリアは思う。
まただ。
まず浄化。
そして結界。
そして――。
前聖女は杖を振り上げた。
ドンッ!
ヒュドラを杖で殴りつける。
「……」
リリアは固まった。
また杖で殴った。
相手はヒュドラだ。
70階層のボスだ。
なのに、やっていることは今までと変わらない。
前聖女は、そのままヒュドラを押さえ込んでいく。
リリアは、自分の存在について考え始めた。
私、いる?
61階層からここまで、ほとんど何もしていない。
前聖女が結界を張る。
前聖女がモンスターを無視する。
前聖女が浄化する。
前聖女がヒュドラを殴る。
ここまで全部、前聖女がやっている。
ケルベロスのときはインフェルノを放った。
あのときは、最後に自分の出番があった。
だが今回は――。
このままだと、本当に何もしないまま終わってしまう。
そんなリリアの思いとは関係なく、ヒュドラは前聖女に押さえ込まれていた。
そして、リリアの魔法を放つ準備が整う。
リリアは詠唱を開始した。
前聖女が作った隙を使い、魔法を完成させる。
そして――。
「インフェルノ」
リリアの魔法が放たれた。
凄まじい炎がヒュドラを包み込む。
巨大な炎がボス部屋を覆い尽くす。
やがて炎が消えていく。
その中にいたヒュドラのHPは、完全に消滅していた。
一撃だった。
「……」
リリアは自分の放った魔法を見つめる。
そして、胸を撫で下ろした。
出番があった。
本当に良かった。
このままでは、自分がここにいる意味がなくなるところだった。
リリアは安堵しながら、隣にいる前聖女を見る。
前聖女はいつも通りだった。
61階層から69階層まで、一体も倒さずに進み。
70階層では毒を浄化し、結界を張り、ヒュドラを杖で殴りつけた。
そして最後はリリアに任せた。
その一連の行動を考えると、リリアは改めて思う。
やっぱり、この人は恐ろしい。
そんなリリアの横で、前聖女は何事もなかったかのようにしていた。




