二人目のSSSランク冒険者
アレンは、前聖女がダンジョンに来ていることを把握していた。
前聖女が来ているのなら、やることは一つだった。
アレンはクロノスを通じて、79階層にいる前勇者へ伝える。
「前聖女が来ている。しばらくダンジョンに留まらせてくれ」
前勇者に伝えるだけなら、それで十分だった。
あとは前聖女がダンジョンを進むのを待てばいい。
その頃、リリアは別の意味で大騒ぎになっていた。
「私でもSランクなのに」
前聖女に認定されたランクは、SSSランクだった。
Sランクであるリリアからすれば、そのさらに上にあるSSSランクという評価は、とんでもないものだ。
「前勇者様と同じランクですね」
しかし、当の前聖女は平然としていた。
まるで、それが特別なことではないかのように言う。
「凄さが分かっていない」
リリアは呆れた。
「個人でSSランクすらいないのに」
Sランクの上にSSランクがあり、そのさらに上がSSSランク。
その領域に個人で到達した冒険者など、現在の世界には前勇者しか存在しない。
それほどまでに異常な評価なのだ。
もっとも、リリアには前聖女が強いこと自体は理解できていた。
リリアは今の勇者パーティーと60階層へ行き、そこで戦った相手を倒している。
勇者パーティーと共に戦った経験があるからこそ、その強さも知っている。
だからこそ、前聖女がその勇者パーティーの一員だったことを考えれば、強いこと自体に驚きはない。
「私は勇者パーティーを知っている」
リリアはそう思っていた。
前聖女がどれほどの実力を持っているのか。
勇者パーティーの一員として戦っていたのなら、強いのは当然だ。
だから――。
驚くことは何もない。
この時のリリアは、そう思っていた。
「リリアさん、一撃必殺でお願いします」
「勇者パーティーと同じ作戦ね」
そして二人は、60階層へ向かった。
60階層へ到着すると、生配信の映像も二人の姿を映し出す。
これまで何度も深い階層へ挑む冒険者たちが映されてきたが、今回はリリアと前聖女の二人だった。
当然、視聴者の注目も集まる。
さらに、その映像は映画館にも流れていた。
「二人で挑むなんて正気か」
映画館の観客から声が上がる。
ケルベロスを相手に二人だけ。
しかも、これから一撃必殺を狙うという。
無謀にしか見えない。
しかし、二人はそんな観客たちの心配など気にすることなく、ボス部屋へ入っていった。
ボス部屋に入った瞬間、ケルベロスが二人を認識する。
巨大な身体が動き出した。
その瞬間、リリアは詠唱を開始する。
魔法を完成させるには時間が必要だ。
その時間を稼ぐ必要がある。
だが――。
前聖女は逃げなかった。
むしろケルベロスへ向かっていく。
手にしているのは、アレンから送られたレーヴァテイン・ロッド。
前聖女はそれを振り上げると、迫ってきたケルベロスを杖で殴りつけた。
ドンッ!
巨大なケルベロスの身体が揺れる。
「まじか」
生配信を見ていた冒険者たちが驚愕する。
まさか杖で殴るとは思っていなかった。
しかも――。
前聖女はそのままケルベロスを押さえ込んでいる。
巨大な身体を持つケルベロスが、前聖女の前で動きを止められていた。
「嘘だろ……」
生配信を見ている冒険者たちが息を呑む。
その間にも、リリアの詠唱は続いていた。
そして、ついに魔法が完成する。
リリアが魔法を放つ、その瞬間。
前聖女がリリアへバフをかけた。
「インフェルノ」
リリアの魔法が放たれる。
次の瞬間、巨大な炎がケルベロスを包み込んだ。
画面いっぱいに炎が広がる。
映画館の観客も、その光景に驚愕する。
「すごい……」
「これがSランクの魔法なのか?」
だが、驚くのはまだ早かった。
炎が消えたとき――。
ケルベロスのHPが、一撃で吹き飛んでいた。
完全な一撃必殺だった。
映画館が静まり返る。
誰も、すぐには言葉を発することができない。
その威力を支えていたのは、アレンが前聖女に送ったレーヴァテイン・ロッド。
さらに、前聖女によるバフまで重なっている。
凄まじい威力になるのも当然だった。
だが――。
それを知らないリリアは、自分が放った魔法の結果を見て呆然としていた。
「……」
リリア自身が一番驚いていた。
確かに一撃必殺を頼まれた。
確かに全力で魔法を放った。
しかし、ここまで一撃で吹き飛ぶとは思っていなかった。
自分で放っておいて、自分が呆然としている。
そんなリリアの隣で、前聖女だけはいつも通りだった。
「二度目になると楽ですね」
まるで、ケルベロスとの戦いなど大したことではなかったかのように、前聖女は呑気に言った。
リリアは前聖女を見る。
先ほどまで、SSSランクの凄さを分かっていないと思っていた。
だが――。
もしかすると。
本当に分かっていなかったのは、自分のほうなのかもしれない。
そんな考えが、リリアの頭をよぎった。




