最終学歴
「アレン、私の給料おかしくない?」
ある日、アリスが突然そんなことを言い出した。
「どこがだ」
「元勇者と待遇が違いすぎるわよ」
「勇者はSSSランクの冒険者だぞ」
アレンは当然のように答える。
「見合った給料出してるだけだ」
「私には基本給だけで通勤旅費も住宅手当もないわ」
「お前の希望で基本給プラス出来高にしたんじゃないか」
「うぐっ」
アリスは言葉に詰まった。
確かに、そうだった。
固定給だけではなく、自分が担当しているダンジョンの成果に応じて給料が増える。
自分の頑張りが、そのまま給料に反映される。
アリス自身がそれを望んだのだ。
「……でも、通勤旅費くらいあってもいいじゃない」
「お前、俺のダンジョンの中に住んでるだろ」
「それはそうだけど」
「通勤してないじゃないか」
「そうだけど!」
アリスは勢いよく机を叩いた。
だが、よく考えるとアレンの言っていることは正しい。
アリスの仕事場はダンジョン内にある。
そもそも通勤という概念がない。
「住宅手当も必要ないだろ」
「……」
「住む場所も用意してるし」
「……そうね」
アリスは反論できなくなった。
待遇が悪いというより、アリスが欲しがっている手当の多くが必要ない環境だった。
「絶対ダンジョンの経営うまく行くと思ったのに」
アリスは悔しそうに呟く。
転生者としての知識を使えば、ダンジョン経営くらい簡単に成功する。
最初はそう思っていた。
しかし現実は、チーズケーキを置いたり、シュークリームを置いたり、アイスクリームを置いたり。
その結果、保冷バッグやクーラーボックスが売れたり。
ニワトリを飼ってみたら食料として人気になったり。
気がつけばフルーツダンジョンと呼ばれたり。
思い描いていたダンジョン経営とは、だいぶ違う方向に進んでいる。
「それにお前、学園退学したよな」
「それが何よ」
「お前の最終学歴、中卒だぞ」
「むきー!」
アリスが頭を抱える。
「前世では大学出てるのよ!」
「それで学園の入試が3位か」
「言わないで!」
アリスは即座に顔を伏せた。
「絶対1位とれると思ってたからガチでへこんだ」
「……」
「前世の知識もあるし、大学まで出てるし、余裕だと思ったのよ」
「でも3位だった」
「言わないでって言ったでしょ!」
アリスがさらに机に突っ伏す。
前世では大学を卒業している。
その自負があった。
だから今世の学園入試なら、当然トップを取れると思っていた。
ところが結果は3位。
しかも、それを知ったアレンには何度もネタにされる。
「まあ、3位なら十分じゃないか?」
「そういう問題じゃないのよ!」
「じゃあ何が問題なんだ?」
「私のプライドよ!」
アリスは顔を上げる。
「前世では大学まで出てたのよ!」
「でも今世では中卒だな」
「むきー!」
再びアリスの叫び声がダンジョンに響いた。
給料の話をしていたはずなのに、最終的には学歴の話になっていた。
そしてアレンは思う。
基本給に出来高。
住居は用意済み。
通勤の必要もない。
そして最終学歴は中卒。
「……待遇としては悪くないと思うんだけどな」
「学歴の話はもういいの!」
アリスの抗議は、しばらく続いた。




