アリスのアトリエ
アリスは、もう二度と動物を飼わないと決めた。
ダンジョンの一角で鶏を育てても、冒険者に狩られて食べられる。
せっかく増やした鶏が、ダンジョンポイントを稼ぐ前に冒険者の腹へ消えていく。
あれだけ苦労したのだから、もう動物を飼うのは懲り懲りだった。
――そう思っていた。
「……でも、やめられないのよね」
アリスは鶏を眺めていた。
鶏は、冒険者から妙に人気が出ていた。
ダンジョンで手に入る鶏は、普通に食べられる。
しかも、この世界では生きた鶏そのものを手に入れる機会も少ない。
冒険者にとっては、チーズケーキやシュークリームとは違う魅力があった。
「鶏、人気なのよね……」
アリスは複雑な顔をする。
自分としては、ダンジョンポイントを効率よく稼ぐために飼い始めた。
ところが今では、ポイントよりも冒険者からの人気のほうが問題になっている。
「どうしよう」
鶏を全部処分するわけにもいかない。
かといって、ダンジョンの中で自由に飼えば、冒険者に狩られてしまう。
アリスはしばらく考えた。
「……だったら、こっちから出せばいいじゃない」
アリスはダンジョンの一角に、人が入れないほどの小さな穴を作った。
その穴から、毎日一定数の鶏を外へ放出する。
冒険者が鶏を探し回る必要もない。
ダンジョンの中に入り込んで鶏を捕まえる必要もない。
決められた数だけ、毎日外に出す。
そして、ここにはもう一つ理由があった。
「鶏はダンジョン生物じゃないから、魔石を残して消えないのよね」
ダンジョンが生み出した魔物なら、倒されれば魔石を残して消える。
しかし、アリスが育てている鶏はダンジョン生物ではない。
だから普通の動物と同じように、その場に残る。
食べてもいい。
売ってもいい。
育ててもいい。
冒険者たちからの評判は、どんどん良くなっていった。
「食べてよし、売ってよし……」
アリスは鶏を見ながら呟く。
「便利すぎない?」
結果として、鶏はダンジョンの人気商品になった。
チーズケーキよりも人気がある。
「……なんでよ」
アリスは納得していなかった。
「チーズケーキより鶏が人気ってどういうこと?」
自分が考えたチーズケーキ。
自分が好きなチーズケーキ。
この世界では珍しいチーズケーキ。
それなのに、鶏に負けている。
「錬金術士だってチーズケーキにハマって、最終的にはケーキ屋になるエンディングもあるのに……」
アリスにとっては、チーズケーキのほうが圧倒的に価値がある。
しかし、冒険者たちからすれば違った。
鶏は食料になる。
売ることもできる。
育てることもできる。
用途が多い。
だから人気になる。
「……まあ、いいわ」
アリスは諦めた。
鶏が人気なら、それはそれでいい。
ダンジョンの入場者も増える。
冒険者の稼ぎにもなる。
自分のダンジョンの収入にもつながる。
そう考えれば、悪いことではない。
ただ――。
「でも、プリンも食べたいわね」
アリスは突然、別のことを考え始めた。
「プリンもドロップに追加しよう」
理由は単純だった。
アリスが食べたくなったからだ。
こうして、アリスのダンジョンには新たにプリンがドロップするようになった。
もちろん――。
何の効果もない。
チーズケーキにも特別な効果はない。
シュークリームにもない。
アイスクリームにもない。
プリンにもない。
ただ美味しいだけである。
「……」
アリスはドロップしたプリンを眺める。
「やっぱりプリンもいいわね」
鶏に人気で負けたことなど、もうどうでもよくなっていた。
こうしてアリスのダンジョンは、ダンジョンポイントを稼ぐために始めた鶏が人気商品となり、本人が食べたいだけのスイーツまで増えていくことになった。
そしてアリス自身は――。
動物を飼うのをやめるという決意だけを、完全に撤回することになった。




