アリス鶏を飼う
アリスは、自分のダンジョンの入場者を増やそうと考えていた。
冒険者は少しずつ増えている。
クーラーボックスや保冷バッグも商人に人気が出て、以前よりはダンジョンに人が来るようになった。
しかし、まだまだ足りない。
「……」
アリスはマスタールームで考え込んでいた。
どうすれば、もっとダンジョンに人を呼べるのか。
今までは冒険者を増やすことばかり考えていた。
しかし――。
「冒険者じゃなくていいじゃないか」
アリスはふと思った。
ダンジョンに入ってくる人間が、全員冒険者である必要はない。
商人でもいい。
一般人でもいい。
ダンジョンの中に町を作れば、そこに住む人間だって入場者になる。
「小説でダンジョンの中に町を作ってる話があったわね」
異世界小説では、ダンジョンの中に町が存在することもある。
冒険者だけではなく、普通の人間が生活している。
「…………」
アリスは考えた。
そして、何かに気づいたように顔を上げる。
「ここじゃん」
わざわざ町を作る必要はない。
人間でなくてもいいのではないか。
「人間じゃなくて動物でもいいんではないか」
動物なら、人間よりも小さい。
必要なエネルギーも少ない。
しかも、種類によっては簡単に数を増やせる。
ならば、ダンジョンの一角で飼育すればいい。
アリスが目をつけたのは――。
「鶏よ」
アリスはダンジョンの一角で鶏を育て始めた。
鶏は数を増やすのに最適な生物だ。
卵を産む。
その卵からまた鶏が生まれる。
そして、鶏自体もそれほど大きくない。
「いいアイデアだわ」
アリスは自分の考えに満足した。
「私、天才じゃない?」
自画自賛である。
しかし、アリスにはちゃんと計算もあった。
「鶏のエネルギーは人間の十分の一……」
鶏一羽が消費するエネルギーだけを考えれば、人間より少ない。
だが、重要なのはそこだけではない。
「体積当たりのエネルギー消費は、確かに人間より多い」
鶏は人間よりはるかに小さい。
それなのに、ちゃんとエネルギーを消費して活動している。
つまり、同じ空間に大量の鶏を飼えば、それぞれの鶏がエネルギーを消費する。
限られたダンジョンの空間を使って考えれば、人間を一人置くよりも効率がいい。
体積当たりのエネルギー消費が多い。
それはつまり、ダンジョンポイントを稼ぐ効率もいいということだ。
「しかも増える」
アリスはさらに満足した。
鶏は増える。
増えた鶏もエネルギーを消費する。
そのうえ、一羽一羽はそれほど大きくない。
「完璧じゃない」
アリスは自分の計画に確信を持った。
人間を増やすより、鶏を増やす。
少ない空間で大量に飼育して、効率よくダンジョンポイントを稼ぐ。
我ながらいい考えだった。
しかし――。
アリスは大事なことを一つ忘れていた。
ここはダンジョンである。
そして、ダンジョンには冒険者がやって来る。
「……鶏がいるぞ」
ある日、ダンジョンを探索していた冒険者が鶏を見つけた。
「本当だ」
「捕まえようぜ」
冒険者たちは鶏に近づいていく。
もちろん、アリスが何のために鶏を育てているのかなど知らない。
冒険者からすれば、ダンジョンの中に鶏がいる。
それだけだった。
「食えるな」
「食えるな」
判断は早かった。
ダンジョンにいる生物なら、食料として利用できる。
むしろ、わざわざ放置する理由がない。
「ちょっと待って!」
アリスが気づいたときには遅かった。
せっかく育てた鶏が、次々と冒険者に狩られていく。
一羽。
また一羽。
増やすために育てていた鶏が、増える前に減っていく。
「違うのよ! それは食べるためじゃなくて――」
アリスの声は冒険者には届かない。
そして――。
せっかく増やした鶏は、冒険者の腹におさまった。
「…………」
アリスは呆然とした。
ダンジョンポイントを稼ぐために鶏を育てた。
数を増やせば、さらに効率よくポイントを稼げると思っていた。
なのに。
鶏は増える前に食べられた。
「……」
アリスはしばらく黙っていた。
そして、ようやく結論を出す。
「もう二度と動物を飼うのはやめるわ」
固い決意だった。
こうして、アリスの画期的な鶏飼育計画は終了した。
ダンジョンポイントを稼ぐために増やそうとした鶏は、ポイントを稼ぐ前に冒険者の食料となった。
アリスの計画は、ダンジョンの効率ではなく、冒険者の食生活を豊かにしただけだった。




