アイスクリーム
アリスのダンジョンは、チーズケーキ、シュークリーム、アイスクリームを新たにドロップに追加した。
どれもアリスが選んだ、このダンジョンだけの特別なドロップアイテムだ。
これで冒険者が増える。
アリスはそう思っていた。
しかし――。
冒険者は増えなかった。
「……なんでよ」
アリスはダンジョンの冒険者数を確認していた。
多少の変動はある。
だが、チーズケーキやシュークリーム、アイスクリームを目当てに冒険者が殺到するようなことはなかった。
アレンからもらった子ダンジョンを大きくする。
そのために考えたドロップアイテムだった。
ところが、思ったほど効果がない。
しかも、問題はそれだけではなかった。
「……アイスクリーム、溶けるのよね」
アリスは自分でドロップしたアイスクリームを見ながら呟いた。
当然だった。
アイスクリームなのだから、時間が経てば溶ける。
ダンジョンの中で手に入れたものを、そのまま外へ持ち出す。
そして街まで持って帰る。
そんなことをしている間に、アイスクリームはどんどん形を失っていく。
「これじゃドロップアイテムとして売れないじゃない」
チーズケーキやシュークリームなら、まだ持ち運べる。
しかしアイスクリームはそうはいかない。
結局、ドロップした場所で食べるしかない。
持ち帰って店で売ることもできない。
冒険者が遠くからわざわざ取りに来るほどではない。
アリスは腕を組んで考えた。
「……」
そして、あることを思いつく。
「だったら、持って帰れるようにすればいいじゃない」
問題はアイスクリームそのものではない。
持ち運ぶ手段がないことだ。
ならば、それを用意すればいい。
「クーラーボックスとか、保冷バッグをドロップアイテムに出せばいいんだわ」
アリスはさっそく新しいドロップアイテムを設定した。
アリスのダンジョンでは、新たにクーラーボックスと保冷バッグがドロップされるようになった。
これでアイスクリームを持ち帰ることができる。
アリスとしては、それだけのつもりだった。
ところが――。
「これ、商人に人気なんだけど」
アリスが驚くことになった。
クーラーボックスと保冷バッグは、商人たちから人気の商品になった。
これまでなら、温度管理が難しかった商品でも持ち運びやすくなる。
遠くへ運べるようになれば、商売の幅も広がる。
冒険者がダンジョンで手に入れたクーラーボックスや保冷バッグを売れば、それなりの金額になる。
結果として――。
冒険者の稼ぎがよくなった。
そして、冒険者の数も少し増えた。
「……増えた」
アリスが数字を確認する。
劇的な増加ではない。
それでも、以前よりは明らかに増えている。
自分のダンジョンを大きくしたいという目的から考えれば、小さいながらも確かな一歩だった。
その話をアレンに報告すると、アレンは少し感心したように言った。
「クーラーボックスと保冷バッグは、さすが庶民の考えだな」
「……」
アリスは複雑な顔をした。
「何だ?」
「いや……」
アリスは言いにくそうに答える。
「アイスクリームを持ち帰るために追加しただけだから」
「……」
アレンも黙った。
「結果的には商人に人気が出て、冒険者の稼ぎもよくなったけど」
「そうだな」
「最初からそんなこと考えてたわけじゃないから」
「でも成功したじゃないか」
「そうなんだけど……」
アリスは少しだけ納得できない顔をする。
自分としては、アイスクリームを持ち帰りたかっただけなのだ。
それがいつの間にか、商人に喜ばれ、冒険者の収入を増やし、ダンジョンに来る冒険者まで少し増えていた。
「……まあ、結果オーライか」
アリスはそう呟いた。
自分のダンジョンを大きくするために考えたアイデア。
その始まりがアイスクリームだったことだけは、アレンにはあまり知られたくなかった。




