こちらの騎士団
宝くじ箱の発表から数日後。
こちらの領地にある騎士団では、騎士団長が領主の執務室に呼び出されていた。
「……つまり、隣領の騎士団は一等を取っただけではなく、二等も二口とも取ったということだな?」
「はい……」
騎士団長は小さく頷いた。
領主の表情は厳しい。
「同じダンジョンで活動しているのに、どうしてこれほど差をつけられている?」
「それは……」
騎士団長にも答えにくい質問だった。
隣領の騎士団は、ダイヤモンドを持ち帰った。
その後も美容品を集め、今回の宝くじでは一等と二等を手に入れた。
対してこちらの騎士団は、同じダンジョンを利用しているにもかかわらず、大きな成果を上げられていない。
「何とか巻き返せ」
領主からの指示は明確だった。
「隣領にこれ以上、差をつけられるわけにはいかん」
「承知しました」
騎士団長は頭を下げるしかなかった。
騎士団長が戻ると、隊長と副隊長を呼び出した。
「……というわけだ」
「無茶を言いますね」
副隊長が頭を抱える。
「ダンジョン探索は、そもそも我々の本来業務ではないでしょう」
隊長も頷いた。
騎士団の本来の仕事は、領地の治安維持や警備、領主の護衛などだ。
ダンジョンに潜ることは、その合間に行っている活動に過ぎない。
「これ以上、ダンジョンに人員を割いたら、本業に影響が出ます」
「分かっている」
「では増員しますか?」
副隊長が聞く。
隊長は首を横に振った。
「誰でもいいわけじゃない」
騎士団に入れる以上、それなりの能力と素性が必要になる。
ダンジョンの宝くじに参加したいからといって、適当な人間を騎士にするわけにはいかない。
「そもそも、隣領の方がおかしいんですよ」
副隊長が小声で愚痴る。
「あちらは文官までダンジョンに投入しているんですよ?」
「しかも連れてきているのは精鋭ばかりだ」
「そんなこと、こっちはできませんよ」
隊長も深く息を吐いた。
しかし、隣領のやり方をおかしいと思っていても、領主の前でそんなことを言うわけにはいかなかった。
「問題は、どうやって巻き返すかだ」
二人は頭を悩ませる。
そして、今回の宝くじについて話題が移った。
「それにしても……景品が事前に分からないとは思いませんでした」
「俺たちだって、まさかあんな景品が出るとは思わなかった」
隊長が腕を組む。
今回の宝くじでは、景品が提示されていなかった。
だからこそ、こちらの騎士団は様子を見ることにした。
しかし結果は――。
隣領が一等を獲得。
さらに二等も二口とも獲得。
「化粧品を集める必要もありますからね」
副隊長がため息を吐く。
十一階層や十三階層で手に入る化粧品は、騎士団としても集めなければならない。
それを放り出してまで、景品の分からない宝くじに全力を注ぐことなどできなかった。
「景品も分からないのに、化粧品を諦めてまで全力を出せるかって話ですよ」
「……そうだな」
隊長も同意する。
だが、今回の結果を見て考えが変わった。
「しかし、次も同じとは限らない」
「え?」
「宝くじ箱の景品が、今回と同じくらい凄いものになるなら……」
隊長は考え込む。
「こちらも参加しないわけにはいかない」
副隊長も頷いた。
問題は、人員だ。
騎士団の仕事を放り出してまで、全員をダンジョンに送り込むことはできない。
そこで隊長が一つの案を出した。
「食料は十階層で手に入れるのをやめよう」
「自前で調達するんですか?」
「ああ」
十階層では食料が手に入る。
しかし、食料を集めるために十階層へ行けば、それだけ時間がかかる。
その時間を宝くじ箱への応募に回す。
「食料くらいなら、こちらで用意できる」
「確かに……」
「その分、ダンジョンにいる時間を短くできる」
副隊長も考える。
「つまり、化粧品集めは続ける。そのうえで、食料は自前で持ち込んで、余った時間を宝くじに使う、と」
「そういうことだ」
これなら本来の活動を大きく削らずに済む。
「よし、それでいきましょう」
隊長が決断する。
「次の宝くじでは、こちらも応募するぞ」
隣領に好き勝手に景品を持っていかれるわけにはいかない。
こちらの騎士団も、ようやく本格的に宝くじ箱へ力を入れることになった。




