ダンジョンマスター捜索
アリスは考えた。
ダンジョンマスターなら、ダンジョンの様子を絶対に見ているはずだ。
自分がどこにいるのか。
何をしているのか。
少なくとも、ダンジョン内で起きていることくらいは把握しているだろう。
問題は――。
「この広いダンジョンで、私に興味を持ってもらわないといけないのよね」
ただ普通に町を歩いているだけでは駄目だ。
冒険者や観光客など、毎日のように大勢やってくる。
その中から自分だけを見つけてもらうには、それなりのことをしなければならない。
しかも、普通の異世界人には意味が分からない。
前世が日本人だからこそ分かるような行動。
「日本人にしか分からないネタ……」
アリスは町を歩きながら考える。
そして、ふと目に入ったものに足を止めた。
「……エレベーター」
建物の中に、見慣れたものがある。
アリスはエレベーターの前まで行くと、ボタンを確認した。
「一階と……十階?」
押しボタンは二つしかない。
「なるほど」
アリスは少し考える。
「多分、条件を満たしたらダンジョンマスターのいる部屋に繋がっているわよね」
普通に考えれば、ダンジョンの施設として設置されているエレベーターだ。
だが、ダンジョンマスターが自由にダンジョンを管理できるのなら、隠し機能くらいあってもおかしくない。
例えば、特定の操作をするとマスタールームへ繋がるとか。
「だったら……」
アリスはボタンを見つめた。
「5963とか4649とか試してみたかったのに」
前世の日本人なら、数字を見ただけで意味を察する人もいる。
しかし――。
「ボタンが一と十しかないんじゃ無理じゃない」
そもそも数字が足りない。
アリスは小さくため息をついた。
「全部の数字があれば、いろいろ試せたのになぁ」
エレベーターから離れ、再び考える。
「他に日本人しか分からないネタ……」
思いついたのは、いくつかある。
だが、どれも問題がある。
「ダンボールに入って『拾ってください』……」
アリスは想像する。
ダンジョンの町の片隅にダンボールを置く。
その中に入る。
そして――。
『拾ってください』
「……これ、日本人じゃなくても拾われる可能性があるわね」
むしろ、この世界なら本当に親切な人が拾ってくれるかもしれない。
「それじゃ意味がない」
必要なのは、日本人なら「あれ?」となる行動だ。
異世界人には普通に見える。
でも、日本人が見たら確実に引っかかる。
「何かないかな……」
アリスは町を歩きながら、必死に考える。
ダンジョンマスターが自分と同郷なら、必ずどこかで反応するはずだ。
問題は、その反応をどうやって引き出すか。
「……絶対に見つけてやる」
アリスは決意した。
就職先を探しているだけだったはずなのに。
いつの間にか、目的はダンジョンマスターを釣り上げることになっていた。




