アリス、ダンジョンに
平民のアリスは、夏休みを利用してアレンのダンジョンへ来ていた。
「ダンジョンの中に、ほんとに町があるわ……」
ダンジョンに入る前から話には聞いていた。
だが、実際に目の前にすると驚くしかない。
普通の町と変わらない。
建物が並び、人が歩き、店が営業している。
そして何より――。
「道路がアスファルトだし……」
足元に広がっているのは、どう見ても自分が前世で見慣れていた道路だった。
さらに道路の向こうから、一台のバスが走ってくる。
「えっ……」
アリスは思わず立ち止まった。
その形。
その大きさ。
その走り方。
見覚えがありすぎる。
「……絶対にダンジョンマスター、私と同郷ね」
確信だった。
異世界に転生してから、同じような境遇の人間がいるとは思っていなかった。
だが、この町はおかしい。
どう考えてもおかしい。
少なくとも、アリスの知るこの世界の文明だけでは説明できないものが、あまりにも多すぎる。
「問題は……どうやって会うかだな」
アリスは腕を組んで考え込む。
ゲームなら簡単だ。
ダンジョンの最下層まで進む。
強敵を倒す。
そして最奥で待ち構えているダンジョンマスターと対峙する。
「……無理」
即答だった。
「絶対に無理」
そもそもアリスは戦えない。
冒険者としてダンジョンを攻略しているわけでもない。
夏休みを利用して、珍しい町を見に来ただけなのだ。
「私が最下層まで行ったら、ダンジョンマスターに会う前に死ぬわよ」
ゲームの主人公なら、それでも進むのだろう。
だが、現実はゲームではない。
死んだら終わりである。
「でも、会えれば同郷のよしみで助けてくれるかもしれないし……」
アリスはそこで、ふと考えた。
「……助けてもらう?」
何を?
自分は今、何か困っているだろうか。
「…………」
しばらく考える。
「……別に困ってないわね」
生活に困っているわけでもない。
食べるものがないわけでもない。
住む場所がないわけでもない。
学校にも通えている。
そして、将来についても――。
「就職先の候補の一つでしかなかったわ」
アリスは自分で言って、自分で呆れた。
そもそもダンジョンマスターに会いたかった理由は、同郷の人間なら何か助けてもらえるかもしれないと思ったからだ。
しかし、今のところ助けを求める必要などない。
むしろ、この町を見ていると――。
「ここ、就職先としてかなり良さそうなのよね」
町は大きい。
店も多い。
人も多い。
しかも、自分の知っている文明に近いものまである。
働く場所として考えれば、かなり魅力的だ。
「だったら……」
アリスの目が変わった。
「ダンジョンマスターに会う方法を見つけてやるわ」
別に助けてもらうためではない。
同郷なのか確かめたい。
そして――。
「就職先の面接くらい、してもらってもいいわよね」
そう呟くと、アリスは町を見渡した。
最下層へ行く必要はない。
そもそも、ダンジョンマスターが本当に最下層にいるとも限らない。
この町を作った人間なら、町のどこかに何か手掛かりがあるはずだ。
「さて……どうやって探そうかな」
アリスの、ダンジョンマスター捜索が始まった。




