短縮された移動時間
セレスティアとリリアとクラリスは、久しぶりに三人でお茶会をしていた。
「セレスティア様、久しぶりの帰省ありがとうございます」
「どういたしまして」
「私もありがとうございます」
リリアもセレスティアに礼を言う。
「往復に時間がかかると面倒になるので、リリアは領地に帰省していなかったのでしょう?」
「はい。領地に戻るだけでかなりの日数が必要でしたから」
リリアは苦笑する。
領主の娘とはいえ、領地が遠ければ簡単に帰れるわけではない。
帰るだけで何日もかかり、戻ってくるにも同じだけの日数が必要になる。
それだけの時間を使うとなれば、帰省そのものが大きな予定になってしまう。
「だから、アレンに行ってこいと言われたけど、私も一度見たいと思っていたのよ」
セレスティアはそう言って紅茶を口にする。
今回の帰省は、アレンから「一度くらい帰ってこい」と言われたことがきっかけだった。
だが、セレスティア自身も、実際に繋がった通路を一度見てみたいと思っていた。
「一般開放はしてないのですよね?」
クラリスが尋ねる。
「リリアの領地との検問所は誰でも使えて、制限かけてないわよ」
「知らなかった」
リリアが驚く。
「一部の冒険者しかまだ利用してないからね」
セレスティアが説明する。
せっかく繋がった通路だが、まだ利用者は少ない。
存在そのものが広く知られているわけでもなく、実際に利用する冒険者も一部に限られている。
それでも、以前なら何日もかかっていた移動が大幅に短縮される。
使い方を知っている者にとっては、それだけでも十分な価値がある。
「クラリスの国に繋がるダンジョンは、使用方法を国同士で協議してからね」
「分かりました」
クラリスは素直に頷く。
自国と王国を繋ぐ以上、一般開放するには決めなければならないことが多い。
誰が使えるのか。
どこまで自由に通行させるのか。
商人や冒険者をどのように扱うのか。
国境を越えるための仕組みまで考えれば、単純に「便利だから使いましょう」という話では済まない。
だが、クラリス本人や、彼女が信頼できる人間まで制限する必要はない。
「あなたとあなたの信頼できる人は使っていいわよ」
「ありがとうございます」
クラリスが頭を下げる。
「私も、国に戻る時に使わせてもらいます」
「もちろんよ」
セレスティアは頷いた。
「それに、クラリスが王国に来る時も楽になるでしょう?」
「はい。今までとは比べものにならないと思います」
クラリスは少し嬉しそうに答えた。
「アレンさんはどう考えているんですか?」
クラリスが尋ねた。
「彼?」
「はい。ダンジョンを繋ぐことについてです」
セレスティアは少し苦笑する。
「彼は無条件で開放したがっているわ」
「無条件で?」
リリアとクラリスが顔を見合わせる。
「ええ。便利なんだから、使えばいいでしょう、という考え方ね」
セレスティアは紅茶を飲みながら続ける。
「アレンにとっては、ダンジョン同士を繋ぐこと自体が難しいことではないからでしょうね」
「なるほど……」
クラリスは納得しかけて、すぐに考え直す。
「でも、国と国を繋ぐとなると、そう簡単にはいかないでしょう?」
「そうなのよ」
セレスティアは頷く。
「便利なものだからこそ、どう使うかを決めておかないといけないわ」
「確かに……」
クラリスも考え込む。
ダンジョンの中にある通路。
それだけならアレンにとっては、ただの移動手段なのかもしれない。
しかし、その先が別の国に繋がるとなれば話は変わる。
人も、物も、情報も、これまでとは比べものにならない速度で行き来できるようになる。
「だから、そこは私たちが考える必要があるのよ」
セレスティアは二人を見る。
「特にクラリス。あなたの国に繋がるんだから、あなたも考えなさい」
「私もですか?」
「当然でしょう」
セレスティアは当然のように答える。
「あなたは自分の国のことを一番よく知っているでしょう? 何が必要なのか、何を警戒するべきなのか。それを考えるのもあなたの役目よ」
「……分かりました」
クラリスは少し驚いた顔をした後、真剣な表情で頷いた。
「私の国にとって、この通路がどういうものになるのか、考えてみます」
「ええ。それでいいわ」
セレスティアは満足そうに微笑んだ。
アレンなら、便利だから使えばいい。
セレスティアなら、その便利さによって何が変わるのかを考える。
そして今回は、その先にある国のことをクラリス自身にも考えさせる。
三人のお茶会は、いつの間にかただの帰省の話から、国と国を繋ぐ新しい道の話へと変わっていた。




