リリアの領地に
アレンは、戻ってきたセレスティアに声をかけた。
「帰って来て早速だが、今度はリリアの領地に行ってこい。勿論、リリアも連れてな」
「分かりましたわ」
セレスティアは、戻ってきたばかりだというのに嫌な顔一つせず頷いた。
「では、リリアを誘ってきますわね」
「ああ」
セレスティアはそのままマスタールームを出ていった。
ほどなくして、セレスティアはリリアのもとを訪れていた。
「リリア、今度一緒に私の領地へ行きませんこと?」
「セレスティア様の領地へ、ですか?」
「ええ。少し見てもらいたいものがありますの」
リリアは少し考える。
しかし、すぐに申し訳なさそうな表情になった。
「申し訳ありませんが、今回は遠慮させてください」
「どうしてですの?」
「遠いですから」
「遠い?」
「はい。私の領地からセレスティア様の領地まで馬車で移動すると、二週間はかかります」
「二週間……」
セレスティアも、その数字には少し考え込んだ。
一日で馬車が進める距離は、およそ三十キロ。
それを毎日繰り返して、ようやく目的地へ辿り着く。
途中で休息も必要になる。
リリアにとっては、ちょっと出掛けるという距離ではない。
「それなら問題ありませんわ」
「え?」
「移動方法を変えればいいだけですもの」
「移動方法、ですか?」
リリアが首を傾げる。
セレスティアは笑みを浮かべた。
「ええ。今回は馬車ではありませんわ」
「では、何で?」
「それは行ってからのお楽しみですわ」
「……随分と自信がありますね」
「当然ですわ」
セレスティアは胸を張った。
リリアは少しだけ不安そうだったが、二週間という日数が必要ないのであれば、と考え直した。
「そこまで時間がかからないのでしたら……」
「ええ」
「では、ご一緒します」
「決まりですわね」
セレスティアは満足そうに頷いた。
出発の準備が整えられ、先触れも出された。
そして当日。
二人はアレンのダンジョンへ戻ってきた。
リリアは以前にもダンジョンを訪れているが、今回はいつもの訪問とは目的が違う。
「こちらですわ」
セレスティアに案内され、二人が向かったのは検問所だった。
「検問所……?」
「ええ」
リリアは周囲を見回す。
そこから先には、普段のダンジョンとは少し違った通路が続いていた。
そして、その先にあったのは洞窟だった。
「洞窟……ですか?」
「ここを通りますの」
「この先に何があるんです?」
「歩いていれば分かりますわ」
二人は洞窟の中へ入っていく。
足元に気をつけながら進んでいくと、しばらくして洞窟の先に別の空間が見えてきた。
そこを抜ける。
「ここは……?」
リリアが辺りを見回す。
「子ダンジョンですわ」
「子ダンジョン……」
アレンのダンジョンから繋がる、別のダンジョン。
リリアはその存在を知ってはいたものの、実際にこうして移動に使うと、不思議な感覚だった。
「ここから外へ出ますわ」
二人は子ダンジョンを通り抜け、外へ出た。
そこで待っていたのは、一台の車だった。
「これに乗るんですか?」
「ええ」
リリアは車を眺めた。
「馬車ではありませんね」
「もちろんですわ」
二人が車に乗り込む。
扉が閉まり、エンジンが始動する。
聞き慣れない音に、リリアが少し驚いた。
やがて車が走り出す。
馬車とは明らかに違う速度で景色が後ろへ流れていく。
「速い……」
思わずリリアの口から言葉が漏れた。
「これなら、馬車とは比べものになりませんわ」
セレスティアは当然のように答える。
車はそのまま走り続けた。
「ところで、どれくらいで着くんですか?」
「まず、一時間ほどですわ」
「一時間?」
「ええ」
リリアは少し考えた。
馬車なら一日で三十キロほど。
それを考えれば、一時間という時間がどれほど短いのかは想像できる。
そして、約一時間後。
「ここからリリアの領地ですわ」
「もうですか?」
リリアは思わず窓の外を見た。
確かに、見覚えのある景色が増えている。
「ここから屋敷までは?」
「あと二時間ほどですわ」
「二時間……」
それでも合計三時間。
馬車なら二週間かかる距離だ。
リリアは、改めてダンジョンを経由した移動の異常な速さを実感した。
車はそのまま領地内を進んでいく。
「これほど便利だとは思いませんでした」
「でしょう?」
セレスティアは嬉しそうに答える。
「しかも、ダンジョンを使わなければ車でも十三時間ほどかかりますの」
「十三時間ですか」
「ええ」
「それでも二週間よりは遥かに短いですね」
「ですが、ダンジョンを経由すれば三時間ですわ」
「……三時間」
リリアはその数字を口の中で繰り返した。
二週間が十三時間になり、十三時間が三時間になる。
移動時間だけで考えても、とんでもない差だった。
やがて、車はリリアの屋敷へ近づいていく。
そして、出発から約三時間。
「到着ですわ」
車が止まった。
リリアが外へ出る。
目の前には、見慣れた屋敷がある。
「本当に……三時間で着いてしまいましたね」
「ええ」
セレスティアも車から降りる。
「だから申し上げたでしょう?」
リリアは振り返り、今まで通ってきた道を思い返した。
アレンのダンジョン。
検問所。
洞窟。
子ダンジョン。
そして外へ出て、車で三時間。
「……馬車で二週間という感覚が、もう分からなくなりそうです」
「それは困りますわね」
「なぜです?」
「普通の移動が遅く感じるようになってしまいますもの」
セレスティアが笑う。
リリアも思わず苦笑した。
だが、その便利さを実際に体験してしまえば、もう以前と同じ感覚ではいられない。
遠いと思っていた距離が、たった三時間で繋がってしまったのだから。




