王城でのパーティ
クラリスはロールスロイスの窓から外を眺めていた。
すでに王国を離れ、故郷の国へ向かう街道を進んでいる。
今回は一人での帰省ではなかった。
隣の席にはセレスティアが座っている。
「もうすぐですわね」
「はい。久しぶりの帰省なので、少し緊張します」
「あなたの故郷でしょう? 緊張する必要などありませんわ」
「そうなんですけど……」
クラリスは苦笑する。
自分の国を離れて、セレスティアのもとで勉強するようになってから、それなりの時間が経っている。
故郷に帰るのは楽しみだった。
だが、今回はいつもの帰省とは少し違う。
セレスティアが一緒なのだ。
「……お姉様が一緒だと、なんだか変な感じがします」
「そうですか?」
「はい。たぶん、みんな驚きます」
「私が同行するだけで?」
「それだけじゃありません」
クラリスは窓の外を指差した。
街道沿いに、ちらほらと人の姿が見える。
そしてロールスロイスの姿を確認すると、こちらへ手を振り始めた。
「ほら」
「まあ」
セレスティアも窓の外を見る。
一人、二人だった人影が、町へ近づくにつれて増えていく。
やがて道の両側に人が並び始めた。
「……これ、私たちを待っているんでしょうか?」
「そのようですわね」
ロールスロイスがゆっくりと進む。
人々は手を振り、歓声を上げている。
「セレスティア様!」
「お帰りなさいませ!」
「セレスティア様!」
クラリスは目を丸くした。
「……私の帰省ですよね?」
「そのはずですわ」
「なのに、どうしてお姉様のほうが歓迎されているんですか?」
「私にも分かりませんわ」
セレスティアはそう言いながら、楽しそうに手を振り返している。
その姿を見て、クラリスは思わず笑ってしまった。
自分の国で、ここまでセレスティアが知られているとは思っていなかった。
王国で起きている変化は、当然ながらクラリスの国にも伝わっている。
新しい商売。
道路やインフラの整備。
ダンジョンとの交流。
そしてセレスティア自身が、王国で様々な政策に関わっていること。
商人たちから伝わる情報も多い。
それだけではない。
クラリスがセレスティアのもとで学んでいることも、国ではよく知られていた。
そのため、二人が乗ったロールスロイスは、到着する前からちょっとしたパレードのようになっていた。
「お姉様、人気者ですね」
「クラリスの国の皆さんが歓迎してくださっているのでしょう」
「それにしては、私よりお姉様の名前を呼んでいる人が多いですけど」
「気のせいですわ」
「気のせいじゃありません」
クラリスは笑った。
やがてロールスロイスは王城へ到着した。
帰省を祝うため、すでにパーティーが開かれている。
クラリスを迎えるためのものだった。
少なくとも、最初はその予定だった。
「クラリス、お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
久しぶりに会う顔に囲まれ、クラリスは故郷へ帰ってきたことを実感する。
しかし、その感傷に浸る時間は長くなかった。
「セレスティア様、少しお話をよろしいでしょうか」
「私も相談したいことが」
「実は政策について――」
セレスティアの周囲に、次々と人が集まっていく。
「……始まった」
クラリスは思わず呟いた。
「何がです?」
「お姉様への相談です」
道路の整備について。
商業政策について。
税について。
他国との交易について。
そしてダンジョンとの関係について。
次から次へと相談が持ち込まれていく。
セレスティアは嫌な顔一つせず、一つ一つ話を聞いていた。
「それでしたら、まず現在の状況を整理したほうがよろしいですわね」
「なるほど……」
「ただし、この国の事情もありますから、王国と同じ方法をそのまま使うのはおすすめしませんわ」
自分の考えを押しつけるのではない。
相手の話を聞き、その国の事情を踏まえて意見を出している。
クラリスは少し離れた場所から、その様子を眺めていた。
「……やっぱり、お姉様はすごい」
以前から分かっていた。
それでも、故郷に帰ってきて改めて見ると、その凄さがよく分かる。
セレスティアは王国で活躍しているだけではない。
国が違っても、相談したいと思わせるほどの知識と経験を身につけている。
「クラリス」
「はい?」
振り向くと、セレスティアがこちらを見ていた。
「あなたも考えなさい」
「え?」
「私がどう答えるのかを見るだけではなく、自分ならどうするのかを考えるのですわ」
クラリスは目を瞬かせる。
「……私も?」
「ええ。せっかく故郷へ帰ってきたのですもの。自分の国をどうしたいのか、考えてみなさい」
「……はい!」
クラリスは嬉しそうに頷いた。
そしてもう一度、セレスティアの周囲に集まる人々を見る。
今度はただ「すごい」と思うだけではなかった。
自分なら、この国をどうするのか。
クラリスは初めて、そんなことを真剣に考え始めた。




