アレンのタイプ
「ねえアレン」
「なんだ?」
セレスティアが紅茶を飲みながら、唐突にアレンへ話しかけた。
「ステラ様はかわいいわよね」
「お前と一緒でカッコいいタイプだな」
「どうゆう評価よ」
セレスティアは眉をひそめた。
褒められているのか、褒められていないのか分からない。
「王妃様は可愛い」
「まあ、王妃様はそういう感じですわね」
「セレスティアはカッコいい」
「……そう」
「フローラは可愛い」
「フローラも喜ぶんじゃないかしら」
「クラリスは守ってあげたい」
「クラリスだけずいぶん方向性が違うわね」
セレスティアは呆れながらも、アレンの評価を聞いていた。
そして最後に、ステラについての評価が出る。
「ステラはお前の劣化版だからあまり興味ないな」
「あなたは相当失礼ね」
セレスティアは即座に返した。
帝国の皇女を捕まえて、劣化版。
本人が聞いたら間違いなく怒るだろう。
「だって似たタイプだろ」
「そうかもしれないけれど、言い方というものがあるでしょう」
「じゃあ別のタイプならいいのか?」
「別のタイプ?」
「聖女みたいな母性がすごい違うタイプの美人なら歓迎する」
「あなたは相当失礼ね」
二度目だった。
「女性を何だと思っているのかしら」
「人それぞれだろ」
「そういうところが失礼なのよ」
セレスティアは呆れながら紅茶を口に運ぶ。
しかし、少しすると表情が変わった。
「ところで、ステラのことだけど」
「なんだ?」
「ステラを友好の印って名目の人質に考えているのよ」
「人質か」
アレンは意外そうに呟いた。
「表向きは帝国との友好交流ですわ。留学生として王国に滞在してもらう」
「実際には?」
「帝国の皇女が王国にいる」
セレスティアは淡々と答える。
「それだけで帝国にとっては無視できない状況になるでしょう」
帝国が王国を軽く見る。
そのたびにステラの存在が意識される。
もちろん、露骨に人質として扱うつもりはない。
あくまで大切な留学生として扱う。
だからこそ外交上の意味がある。
「なるほどな」
アレンは少し考えてから言った。
「俺はいらないかな」
「私が使い道があると思っているのよ」
「皇女を人質にするのか?」
「人質という言い方をしなければいいでしょう」
「それは人質って言うんじゃないのか?」
「外交というのは、そういうものですわ」
セレスティアは平然としている。
「ステラ本人に何かするつもりはありません。ただ、帝国には王国に皇女がいるという事実を意識してもらう」
「俺には関係ないな」
「あなたには関係なくても、王国には関係があります」
「そうか」
アレンはそれ以上考えるのをやめた。
しばらくして、ふと思いついたように言う。
「クラリスみたいに家を建ててあげない?」
「やらない」
即答だった。
「なんで?」
「まだ移住が決まったわけじゃないのよ」
「留学生だもんな」
「そういうことですわ。帝国へ戻る可能性もあるでしょう」
「それならなおさら、専用の家を作る必要はないな」
「でしょう?」
セレスティアも頷く。
「リリアみたいに自分で建てさせろ」
「……それは本人がここに住むと決めた後でしょうね」
「そうだな」
「それに、クラリスの時とは事情が違いますわ」
クラリスはすでに王国で生活することが決まっている。
だから住居を用意する意味があった。
だがステラは違う。
帝国の皇女であり、今回の滞在そのものが外交の一環だ。
「まだ帰る可能性がある人間のために、専用の設備を作るのは無駄でしょう」
セレスティアがそう言うと、アレンも頷いた。
「尚更無駄になる可能性がある設備は作らない」
「あなたは本当にそこだけは一切ぶれませんわね」
「ダンジョンポイントは有限だからな」
帝国の皇女を迎える。
普通なら盛大な歓迎をして、立派な屋敷を用意するところなのかもしれない。
だがアレンにとっては、使われるか分からない家にポイントを使うことの方が問題だった。
「必要になったら、その時に作ればいい」
「その通りですわ」
セレスティアは少し笑う。
「では、ステラには今あるホテルを使ってもらいましょう」
「それでいいだろ」
「本当に、皇女に対する扱いとは思えませんわね」
「ホテルはちゃんとしてるだろ」
「ええ。普通の王侯貴族なら十分すぎるほどですわ」
セレスティアは窓の外を見る。
帝国の皇女が、この町で何を見て、何を考え、何を帝国へ持ち帰るのか。
それはまだ分からない。
だが少なくとも、ステラが王国を知るほど、帝国との関係も変わっていくだろう。
「まあ、しばらくは様子を見ましょう」
「そうだな」
「あなたはステラに興味がないようですけれど」
「うん」
「……聖女みたいな母性がすごい違うタイプの美人なら歓迎するのね?」
「そこは重要だ」
「本当にあなたは……」
セレスティアは呆れながら、もう一度紅茶を口にした。
帝国の皇女をどう扱うかという重要な話をしていたはずなのに、最後に残ったのは、アレンの妙な女性の好みについてだった。




