セレスティアの貫禄
ステラが帰った後も、三人はそのままお茶会を続けていた。
先ほどまで帝国の皇女が座っていた席を眺めながら、アレンは紅茶を口にする。
そして、ぽつりと言った。
「セレスティア、悪役令嬢みたいでかっこよかったぞ」
「誰が悪役令嬢よ」
セレスティアがすぐに睨みつけてくる。
「お姉さま、帝国の皇女相手にすごいです」
クラリスが感心したように言った。
「帝国の皇女なんて嫁いだらどっかの貴族婦人よ。クラリスの方がずっと価値は高いわ」
「私には無理です」
クラリスは即答した。
「帝国は私の国の四倍はでかいから私には無理です」
「国の大きさと皇女の価値は別でしょう」
「でも、あのステラさんを相手にあそこまで言える自信はありません」
フローラも静かに口を開いた。
「私も侯爵令嬢の立場ではあそこまでいえませんわ」
二人の言葉に、セレスティアは特に気にした様子もなく紅茶を飲む。
「言うべきことを言っただけですわ」
「それがすごいんだよ」
アレンが言う。
「帝国の皇女だぞ」
「皇女だから何かしら?」
セレスティアは首を傾げる。
「帝国は大国です。王国よりも国土は広く、兵力も多い。だからこそ、王国が帝国を恐れて何も言えなくなれば、それこそ相手の思う壺ですわ」
その声音には、先ほどまでの茶会の柔らかさがなかった。
「今まで帝国は王国を下に見ていて、何度も侵攻して失敗してきました」
クラリスとフローラが黙ってセレスティアを見る。
「それでも帝国は、王国を完全に敵に回すことは避けている。ならば、こちらも相手の立場を理解した上で付き合えばいいのです」
「でも、ステラは敵国の皇女だろ?」
「私の国は友好国ですわ」
クラリスがすぐに訂正する。
「そうでした」
セレスティアは笑った。
「クラリスの国のような友好国もあります。でも、王国の周りには帝国とどちらにつこうか悩んでいる中立国が多い」
「なるほど」
アレンが頷く。
「だから今回の留学生も、単純な友好交流じゃないんだな」
「ええ」
セレスティアは窓の外を見る。
「帝国は王国を知りたい。ならばこちらも帝国を知ればいい。相手がこちらを観察するなら、こちらも相手を観察する。それだけのことですわ」
「それで?」
「王国を甘くみていいわけがないことを理解してもらいます」
その言葉は静かだった。
だが、決意だけははっきりと伝わってくる。
「そして、周辺国にも王国を選ぶ理由を作ります」
「周辺国?」
「王国の回りは帝国とどちらにつこうか悩んでいる中立国が多いから、私の代で全て味方につけるわ」
「全部?」
「全部ですわ」
セレスティアは当然のことのように言った。
フローラが苦笑する。
「お姉さまなら、本当にやりそうですわね」
クラリスも頷く。
「私もそう思います」
アレンは二人の顔を見て、それからセレスティアを見る。
王妃候補として教育を受けている。
商会を経営している。
貴族の相談にも乗る。
外国の情報も集める。
そして今度は周辺国を全部味方につけるらしい。
アレンはしばらく黙っていた。
そして、思ったことをそのまま口にした。
「もうお前が王になれよ」
「……何を言っているのかしら?」
セレスティアの目が細くなる。
「いや、今の話を聞いてたらそうなるだろ」
「私は王妃になりますわ」
「王妃の仕事量じゃないだろ」
「王妃は王国のために働くものですわ」
「いや、そういう話じゃないんだよ」
アレンは紅茶を飲みながらため息をついた。
今日もまた、王国の未来を真剣に考えている人間の横で、自分だけが場違いなことを言っている気がした。
だがセレスティアは、そんなアレンを見て楽しそうに笑っていた。




