アレンへの挑発
隣領から来ていた文官は、ダンジョンで排出されるアイテムを一つ一つ調べていた。
「やはり、これらのアイテムは未来の製品なのではないでしょうか」
隊長が文官を見る。
「未来の製品?」
「ええ。今の我々には作れなくても、技術が進歩すれば、いつか自分たちでも作れる可能性があります。ダンジョンの謎の力でしか作れない物とは限りません」
文官はダンジョンの奥を見つめる。
「そう考えると、ダンジョンマスターは知的生命体なのではないでしょうか」
「知的生命体?」
「しかも、我々より高い知能を持っている可能性があります。そして、意思疎通ができる可能性も高い」
隊長は要望箱を見る。
「……だったら、ちょっと挑発してみるか」
「隊長?」
隊長は金貨を一枚取り出した。
そして紙に、
『この金貨と同等の価値の商品と交換してほしい』
と書いた。
「これを入れる」
「本当にやるんですか?」
「試す価値はある」
隊長は金貨と紙を要望箱へ入れた。
その頃、マスタールームではアレンが投げ込まれた金貨を鑑定していた。
「三十万か」
アレンは紙を見る。
『この金貨と同等の価値の商品と交換してほしい』
「なるほど。挑発してきたわけか」
アレンは少し考える。
三十万円の商品。
普通の商品を出しても面白くない。
圧倒的な技術力を見せつけるなら――。
「ダイヤモンドだな」
アレンが選んだのはダイヤモンド。
しかも、ブリリアントカット。
これなら、向こうも驚くだろう。
アレンはダイヤモンドを要望箱へ送り出した。
一方、隣領では隊長と文官が要望箱を見つめていた。
「隊長……さすがに無理ではないですか」
「何がだ?」
「金貨一枚と同等の価値の商品ですよ。こちらの金貨に対して、本当に釣り合う物を出せるとは……」
「試す価値はある」
その時だった。
要望箱から紙が一枚出てきた。
「何か出たぞ」
隊長が紙を拾う。
「何て書いてある?」
文官が覗き込む。
「……『次はない』と書いてあります」
「次はない?」
隊長が首を傾げた。
その直後。
コロン。
小さな音がした。
「何か出てきたぞ」
隊長が要望箱から取り出した物を見て、固まった。
「……ダイヤモンドか?」
透明な石だった。
だが、ただのダイヤモンドではない。
光を受けるたび、無数の面が輝きを返す。
「なんだ、この輝きは……」
隊長は石を傾ける。
「こんな形、見たことないぞ」
「見せてください!」
文官が慌てて近づいた。
隊長からダイヤモンドを受け取ると、文官は無言で眺め続けた。
そして――。
「これは……至高のダイヤモンドです」
「そこまでなのか?」
「はい」
文官はダイヤモンドから目を離さない。
「この形状は見たことがありません。これほどまでに光を引き出す加工技術が存在するとは……」
「つまり?」
「これを加工した技術は、我々の遥か先にあります」
隊長はダイヤモンドを見る。
「俺には宝石のことは分からんが……」
「私にも価値を正確に判断できません」
文官は真剣な顔で続ける。
「ですが、少なくとも金貨一枚と簡単に釣り合うような品には見えません」
隊長も頷いた。
「だな」
二人は顔を見合わせた。
挑発のつもりだった。
金貨一枚を入れて、ダンジョンマスターがどんな反応をするのか見たかった。
ところが返ってきたのは、自分たちの知らない加工技術によって生み出された、見たこともないダイヤモンドだった。
「……とんでもないな」
隊長が呟く。
「はい」
「このダイヤモンドを持ち帰る」
「領主様に?」
「ああ」
二人はダイヤモンドを厳重に包み、隣領へ戻った。
そして、その日のうちに領主へ報告することになった。
「領主様、お見せしたい物がございます」
「何だ?」
隊長は布に包んだダイヤモンドを取り出した。
「ダンジョンから出てきた物です」
「ダンジョンから?」
領主が身を乗り出す。
「要望箱に金貨を一枚入れまして、同等の価値の商品と交換してほしいと書きました」
「それで、これが?」
「はい」
隊長が布を開く。
領主は言葉を失った。
「…………」
机の上に置かれたダイヤモンドが、室内の光を受けて輝いている。
領主はゆっくりと近づいた。
「……ダイヤモンドか?」
「はい」
「だが……こんな物は見たことがない」
領主は様々な角度から眺める。
「なんだ、この輝きは」
隊長が答える。
「私も同じ感想でした」
「文官はどう見ている?」
呼ばれた文官が前に出る。
「これは至高のダイヤモンドだと考えます」
「至高の?」
「この加工技術が異常なのです。これほど正確に多くの面を作り、ここまで光を引き出す技術を私は知りません」
領主は黙ってダイヤモンドを見つめた。
「この品が……金貨一枚に対する返答なのか」
「はい」
領主は首を横に振った。
「釣り合っているとは思えんな」
「私もそう思います」
「我々には、この石の価値を正確に判断することすらできない。それほどの技術が使われているということだろう」
領主はダイヤモンドから目を離さなかった。
「これは国へ献上する」
隊長が頷く。
「やはり、そうなりますか」
「ああ」
領主は即座に決断した。
「これほどの物を我が領だけで抱えるべきではない。国王陛下に見ていただく」
文官も頷いた。
「国宝に認定される可能性すらあります」
「ならば、なおさらだ」
領主はダイヤモンドを厳重に包ませる。
「このダイヤモンドは、国へ献上する」
こうして、隊長がダンジョンマスターを挑発するために入れた一枚の金貨は、隣領の領主を経て、国へ送られることになった。
そしてアレンは――。
そんな大事になっていることなど知らず、マスタールームで次の要望を眺めていた。




