平民の特待生アリス
アリスは転生者だった。
前世の記憶を持ったまま、この世界に生まれた。
生まれた場所は、どこにでもあるような花屋だった。
貴族でもなければ、商人として大きな成功を収めている家でもない。
ごく普通の平民の家。
そんな環境で育ったアリスには、幼い頃から一つの期待があった。
「もしかして、私って乙女ゲームのヒロインなんじゃない?」
転生したのなら、一度くらいはそう考える。
しかも前世では大学まで出ていた。
この世界の知識を見れば見るほど、前世との違いは大きかった。
文字は読める。
計算もできる。
学問もある。
しかし、アリスから見れば、この国の教育水準はかなり低かった。
「これなら……」
幼い頃から勉強を続けた。
もし本当に自分が物語のヒロインなら、学園に入れば何かが起こるかもしれない。
そして、もしこの世界に存在する最高峰の学園でトップになれるほどの実力があれば。
平民という身分をひっくり返すことだってできるかもしれない。
「王国のトップの学園で、平民なのに成績トップ!」
そんな展開を期待していた。
ところが。
入試の結果は三位だった。
「……三位?」
アリスは結果を見て固まった。
一位ではない。
二位でもない。
三位。
もちろん、十分すぎるほど凄い成績だ。
平民であることを考えれば、むしろ異常なくらい優秀だった。
特待生にも認められた。
学費の心配をする必要もない。
普通なら大喜びするところだ。
だが、アリスは少しだけ複雑だった。
「やっぱり、どこにでも天才っているんだ……」
前世の大学まで出た知識。
幼少期から必死に勉強した努力。
この世界の学園の水準を見て、これならトップを狙えると思った。
それでも一位には届かなかった。
どうやら、どこの世界にも「突き抜けた天才」というものは存在するらしい。
それでも三位。
特待生。
学費の問題もない。
学園生活そのものは悪くなかった。
そして、アリスにはもう一つ楽しみにしていたことがあった。
乙女ゲームのヒロインなら、学園には攻略対象がいるはずだ。
実際、学園には貴族の子息を中心に、カッコいい人がたくさん通っている。
「これは……!」
アリスは期待した。
だが、現実は甘くなかった。
平民の自分には、誰も興味を持ってくれない。
身分が違いすぎる。
当然といえば当然だった。
「まあ、そう簡単にはいかないよね……」
では、同じ平民ならどうか。
そう思って見てみた。
しかし、同じ平民の特待生は――。
「……うん」
カッコよくない。
乙女ゲームの攻略対象どころか、普通にクラスメイトだった。
アリスの期待していた学園生活は、少しずつ現実に引き戻されていった。
ならば、せめて勉強では一番になろう。
次の試験では一位を取る。
そう決めて、アリスはさらに勉強した。
前回三位だった。
あと二人。
今度こそトップを取れる。
そう思っていた。
そして試験結果が発表された。
「……八位?」
今度は一位どころか、順位が大きく落ちていた。
「なんで!?」
答案を確認してみる。
勉強そのものでは、そこまで悪くない。
では、何が原因だったのか。
答えは、貴族としての当たり前のマナーだった。
挨拶。
立ち振る舞い。
食事作法。
社交の場での振る舞い。
そういった、この世界の貴族にとっては幼い頃から身につけていることが評価基準に加わっていた。
アリスには、それがなかった。
前世の大学までの知識があっても、この世界の貴族社会で当たり前とされているものまでは分からない。
「そりゃ、そうか……」
アリスはようやく理解した。
自分が知っている知識が、そのままこの世界で最強の武器になるわけではない。
むしろ、この世界で生まれ育った人間には、この世界でしか身につけられない知識がある。
特に高位貴族の令嬢たちは、幼い頃から王妃候補にすらなれるような教育を受けている。
そう考えると、入試で三位になれたこと自体がかなり凄かったのだろう。
「王妃は無理そうだなぁ……」
アリスは早々に方向転換する。
狙える最高位は、文官くらいだろうか。
それでも、平民としては十分すぎる。
この世界で前世の知識を活かせる仕事に就けば、普通の人生よりずっと良い暮らしができる。
そう考えていたある日。
アリスは妙な噂を耳にした。
「ダンジョンの内部に、町がある?」
最初は聞き間違いかと思った。
だが、どうやら本当らしい。
ダンジョンの中に冒険者が暮らす町があり、商店があり、宿があり、普通の町と変わらない生活ができるという。
「……絶対、転生者の仕業でしょ」
アリスは確信した。
こんなもの、この世界の人間だけで思いつくはずがない。
いや、もちろん本当にこの世界の人間が作った可能性もある。
それでも、前世の記憶を持つアリスからすれば、どうしても気になった。
ダンジョンの中に町。
自分と同じような発想を持つ人間が、どこかにいるのではないか。
「そこで働くのも面白そう」
アリスは新しい就職先の候補として、そのダンジョンを考え始めた。
文官になる。
それも悪くない。
けれど、もしダンジョンの中に本当に自分と同じ世界を知る人間がいるのなら。
その人物に会ってみたい。
そして何より――。
「ダンジョンの中に町を作る人って、どんな人なんだろう?」
アリスの興味は、少しずつそのダンジョンへ向き始めていた。




