平民の特待生
アレンはセレスティアに聞いていた。
王妃の条件にあった「国一番の女性」についてだ。
以前、王妃になるための条件を聞いたとき、その中に「国一番の女性」というものがあった。
アレンとしては、かなり曖昧な条件に思えていた。
何を基準に一番なのか。
身分なのか、容姿なのか、学力なのか、それとも別の何かなのか。
そこで、ちょうどセレスティアが序列一位になっていることを思い出したのだ。
「なあ、セレスティア」
「なんですの?」
「王妃の条件にあった国一番の女性についてなんだけどさ」
「ええ」
「セレスティアが序列一位で、フローラが序列二位だよな?」
「そうですわね」
セレスティアは特に否定することもなく頷いた。
「3位以降もあるのか?」
「ありますわよ」
「やっぱりあるのか」
アレンは少し感心した。
てっきり、一位と二位くらいまでしか決められていないものだと思っていた。
だが、セレスティアの様子を見る限り、かなり細かく順位がつけられているらしい。
「じゃあ、リリアも入ってるのか?」
アレンが何気なく聞く。
すると、セレスティアは即座に答えた。
「あんな脳ミソまで筋肉でできてる娘が入っているわけありませんわ」
「お前を慕っているのに酷いな」
「慕っていることと、王妃候補として評価されることは別問題ですわ」
「まあ、そうだけどさ」
アレンはリリアの姿を思い浮かべた。
確かにリリアが王妃になった姿は、あまり想像できない。
本人は本人で、王妃になっても鍛錬を続けそうだ。
王妃の仕事をしている横で筋トレでも始めかねない。
「王妃様は元の身分は何だったんだ?」
「伯爵令嬢ですわ」
「伯爵令嬢?」
アレンは少し意外そうな顔をした。
王妃なのだから、もっと高位の家の出身なのだと思っていた。
「やっぱり高位貴族から選ばれるのか?」
「違いますわ」
セレスティアはすぐに否定した。
「高位貴族の方が幼少期から教育を受けてるから、レベルが高い可能性が高いだけですわ」
「なるほどな」
アレンは少し考える。
高位貴族の令嬢なら、幼い頃から礼儀作法、教養、社交、政治、外交など、王妃になるために必要になりそうな教育を受ける機会が多い。
だから結果として上位に入りやすい。
しかし、それはあくまで可能性の話だ。
「つまり、身分が高いから順位が上になるわけじゃないんだな」
「ええ。身分だけで決めてしまったら、それは『国一番の女性』ではありませんもの」
「じゃあ、どんな身分でも候補にはなれるのか?」
「一番身分が低い候補は男爵令嬢ですわ」
「男爵令嬢までいるのか」
「もちろんですわ」
セレスティアは当然のように答える。
アレンはそこで、さらに一つの疑問を抱いた。
「だったら平民でもあり得るのか?」
「理論上だけですわ」
「理論上?」
「制度として完全に排除されているわけではありませんわ。平民だからという理由だけで、最初から候補になれないという決まりではありませんもの」
「じゃあ、ものすごく優秀な平民がいたら?」
「可能性だけならありますわ」
「だったら、学園の平民の特待生で成績がトップにたった娘はいません、みたいなこと?」
「いません」
「今まで一人も?」
「一人もいませんわ」
セレスティアは即答した。
「へえ……」
アレンは少し考えた。
学園には平民の特待生もいる。
勉強ができる者もいる。
その中で、もし誰かが貴族令嬢たちを押しのけて学園のトップに立ったら。
それだけなら、単純に「すごい平民が出てきた」で終わるかもしれない。
だが、その人物が王妃候補として評価されるところまで行ったら話が変わる。
「いたら候補になるのか?」
アレンが聞くと、セレスティアは少し考えた。
そして、淡々と答えた。
「たぶん消されますね」
「……」
アレンの思考が止まった。
「怖っ!」
思わず声が出た。
「いや、制度上は候補になれるんだろ?」
「制度上は、ですわ」
「じゃあ、なんで消されるんだよ」
「制度と現実は別ですもの」
セレスティアは平然としている。
「平民の特待生が学園でトップになる程度なら、まだ問題にはなりませんわ」
「程度って……」
「ですが、その女性が学園の成績だけではなく、教養や社交性、判断力などでも評価され、国一番の女性に近づいていったら?」
「……貴族令嬢を全部抜いていくことになるな」
「そうですわ」
「しかも平民が」
「ええ」
セレスティアは頷いた。
「それを快く思わない方が出てくるでしょうね」
「王妃候補になる前に潰される?」
「そうなる可能性は十分ありますわ」
「制度上は可能なのに?」
「だからこそ面倒なのですわ」
セレスティアはため息をついた。
「表向きは誰にでも可能性がある。けれど、実際には身分による差が存在する。そういうものですわ」
「なんか建前と現実がすごいな」
「貴族社会ですもの」
アレンは腕を組んで考え込んだ。
平民でも王妃になれる。
それだけ聞けば、かなり開かれた制度に思える。
しかし実際には、高位貴族ほど幼少期から教育を受けている。
だから自然と上位に来る。
そして、もしその差を覆して平民が頂点に立とうとすれば、今度は別の問題が起きる。
「……特待生が今までトップになってなくてよかったな」
アレンがぽつりと言う。
セレスティアも静かに頷いた。
「ほんとにね」
二人の間に、少しだけ沈黙が落ちた。
制度としては可能。
理論上も可能。
だが、現実には誰もそこまで到達していない。
それは果たして幸運なのか。
それとも、そうならないように誰かが調整してきた結果なのか。
アレンには分からなかった。
ただ一つだけ分かることがある。
「国一番の女性って、思ってたよりずっと面倒な順位なんだな」
「今さら気づきましたの?」
セレスティアは呆れたように笑った。




