元勇者をスカウト
アレンはモニターを眺めていた。
勇者が40階層へ向かっている。
「40階層に挑むのか」
40階層から先は、それまでとは明確に難易度が違う。
勇者の実力なら、どこまで進めるのか。
アレンは少し興味を持って見ていた。
だが、そこで一つ思いつく。
「クロノス」
「なんだ」
「ちょっと聞いてこい」
「何をだ?」
「あの勇者、何しにここへ来たのか」
クロノスは少し考えた。
「我が現れたら、あの勇者は驚くぞ」
「だからフレンドリーにしてこい」
「……我にそれを求めるのか?」
「頼んだぞ」
「分かった」
クロノスは40階層へ向かった。
そして勇者が40階層へ足を踏み入れた、その瞬間。
目の前に巨大なエンシェントドラゴンが現れた。
「よくぞ来たな、元勇者よ」
「……」
勇者は固まった。
「なんでこんな浅い階層にお前がいるんだ?」
エンシェントドラゴン。
それも、ただのエンシェントドラゴンではない。
勇者はその存在を知っていた。
こんなものが、40階層にいるはずがない。
「お主に話がある」
「なんだ?」
クロノスは勇者を見下ろした。
「何しにこのダンジョンに来た?」
「金稼ぎに決まってるだろ」
即答だった。
「金が必要なのか?」
「金がないと生活できないだろ」
「……そういうものなのか」
クロノスは少し考えた。
「仕事をやろうか?」
「どういうことだ?」
「ダンジョンのモンスターと戦って報酬を得る」
「それなら、依頼を受けなくても今やっている」
「そうではない」
クロノスは首を横に振った。
「ダンジョンが従業員として雇ってやる」
「……ダンジョンが?」
「そうだ」
勇者は困惑した。
「従業員用の住まいも用意するぞ」
「そこまでしてくれるのか?」
「当然だ」
「仕事内容は?」
クロノスは堂々と答えた。
「我や普通の冒険者が来られない階層のボスと戦う」
「……」
勇者の目が少し輝いた。
自分の実力を活かせる仕事。
それなら確かに悪くない。
「ついでに79階層をお前が守らないか」
「79階層?」
「ああ」
クロノスは続けた。
「俺は一人ではお前には勝てん」
「……そうだろうな」
勇者は苦笑した。
エンシェントドラゴンと一対一で戦って勝てるとは思っていない。
だが、クロノスは続けた。
「勝つ必要はない」
「どういうことだ?」
「データを取るだけだ」
「データ?」
「お主がどれほど戦えるのか。どの程度の攻撃が通るのか。どこまで耐えられるのか。我が確認する」
「……それは戦うということだろう」
「そうとも言う」
クロノスは少し楽しそうに笑った。
「とりあえず、我と戦うか?」
勇者は即座に首を横に振った。
「お前はソロで挑む相手じゃないわい」
「そうか」
クロノスは残念そうに答えた。
「では、話はまとまったな」
「まだ就職すると決めたわけじゃないぞ」
「金が必要なのだろう?」
「……」
勇者は黙った。
それは否定できなかった。
こうして、引退した勇者は――
アレンのダンジョンから、まさかの就職の誘いを受けることになった。




