ダンジョンへの依存
税の問題が一段落した後、セレスティアはアレンのもとを訪れていた。
「今回の件、王妃様が決めてくださったおかげで、かなり収まりましたわ」
「そうか」
「ダンジョン内での取引には国は関与しない。そして不満のある商人や周辺領地には補助金を増やす。これなら大きな混乱にはならないでしょう」
「まあ、妥当じゃないか」
アレンはそう答えると、少し考えるようにモニターへ視線を向けた。
「ただな、セレスティア」
「なんですの?」
「一つ気をつけたほうがいい」
いつもの軽い口調だった。
だが、セレスティアはその言葉に少しだけ表情を引き締めた。
「何をですの?」
「ダンジョンを便利な資源として使うのはいい。でも、頼りすぎるな」
「……依存するな、ということですの?」
「そういうこと」
セレスティアは少し考えた。
ダンジョンは便利だ。
食料もある。
鉄もある。
商人が集まり、冒険者が集まり、宿泊施設もある。
ダンジョンランドには娯楽施設まで揃っている。
最近では疫病騒ぎをきっかけに研究まで始まった。
王国にとって、ダンジョンはすでに単なる冒険者のための場所ではなくなっている。
「でも、食料については問題ないのではありませんこと?」
「なんで?」
「ダンジョンで生産された食料の多くは、ダンジョン内で消費されていますわ。王国の食料供給をダンジョンに頼っているわけではありません」
「王国全体ではな」
アレンはそこで言葉を切った。
「じゃあ、ダンジョンがなくなったら?」
「……」
セレスティアは黙った。
「ダンジョンの中に住んでいる人たちは?」
「……食料がなくなりますわね」
「そういうことだ」
ダンジョンの中には、すでに大勢の人間が暮らしている。
商人もいる。
職人もいる。
従業員もいる。
娯楽施設で働く者もいる。
そして、その人たちの生活はダンジョンの存在を前提として成り立っている。
「鉄もそうだぞ」
「鉄?」
「このダンジョンの生産量、王国全体の二割近くあるだろ」
「……そうでしたわね」
数字として見れば、王国全体の供給の一部に過ぎない。
だが、二割だ。
それが突然消えれば、鉄の価格も供給も大きく変わる。
「商売だってそうだ」
アレンは続けた。
「ダンジョンに来る冒険者がいなくなったら、宿屋も商人も困る。逆にダンジョンに人が集まりすぎれば、周辺の領地が客を奪われる」
「……」
「便利だからって、全部ダンジョンを前提にすると危ない」
セレスティアは黙って考え込んだ。
自分が運営しているダンジョン。
正確には、アレンのダンジョンだ。
そこにはすでに、多くの人間の生活が存在している。
食料。
鉄。
商業。
冒険者。
宿泊。
娯楽。
研究。
物流。
一つずつ考えていけば、ダンジョンがなくなったときに影響を受けるものがいくつも出てくる。
「……恐ろしいですわね」
「何が?」
「今まで、ダンジョンがなくなった場合など考えていませんでしたわ」
「俺も普段は考えてないぞ」
「そこは考えてくださいませ」
「面倒だな」
アレンは平然と言った。
セレスティアは呆れたように息を吐く。
だが、その表情はすぐに真剣なものへ戻った。
「つまり、ダンジョンを利用すること自体が問題なのではなく……」
「なくなっても国が回るようにしておけってこと」
「なるほど」
セレスティアは頷いた。
ダンジョンを使わないのではない。
便利なものは便利なものとして使う。
ただし、それがなくなった瞬間に国そのものが立ち行かなくなるような仕組みにはしない。
「王妃様にもお伝えしておきますわ」
「そうしてくれ」
セレスティアは立ち上がった。
税の問題は解決した。
だが、ダンジョンが大きくなればなるほど、新しい問題も生まれてくる。
今度の問題は、税ではない。
ダンジョンに頼りすぎてしまうことだった。
セレスティアは、そのことを王国の新しい課題として認識した。




