ダンジョンは国家
セレスティアは、王国で起きている議論についてアレンに相談していた。
「それで、王国ではダンジョン内に王国法を適用できないかという話になっていますの」
「無理だな」
アレンは即答した。
「なぜですの?」
「俺の認識では、ダンジョンは一つ一つが独立した国家みたいなものだからだ」
「国家……ですの?」
「そう。ダンジョンにはダンジョンマスターがいる。外の国に支配されることを許すダンジョンなんて、基本的にはないだろ」
セレスティアは考え込んだ。
確かに、ダンジョンにはそれぞれ意思がある。
ダンジョンマスターが存在し、その内部を管理している。
王国の領主がダンジョンの中に入って、
「今日からここは王国の領地です」
などと言って認められるはずもない。
「では、ダンジョンのある国がダンジョンを有効利用しようとすること自体は?」
「当然だろ」
アレンは不思議そうに答えた。
「危険な場所だからって放置するより、協力できるなら利用する。俺だって王国にあるものを利用してるだろ」
「……つまり、ダンジョンと国が協力すること自体には問題がない」
「そりゃそうだ」
アレンはそこで少し考えた。
「ただし、ダンジョンを支配しようとしたら話は別だ」
「どこからが支配になりますの?」
「例えば、ダンジョンの入口で王国が勝手に通行料を取るとか」
セレスティアの表情が変わった。
「ダンジョンを利用する者から、王国が料金を徴収する?」
「そう。そんなことをされたら、ダンジョン側からすれば自分の領域に勝手に課税されてるのと同じだろ」
「……敵対行為ですわね」
「そうなるな」
アレンはあっさり答えた。
「下手をしたら戦争だ」
セレスティアは黙り込んだ。
王国側は、ダンジョンを自国の中に存在する施設のように考えていた。
だから王国法を適用できると思っていた。
しかし、アレンの認識はまったく違う。
ダンジョンは国の所有物ではない。
国が利用することはできる。
協力することもできる。
だが、支配することはできない。
そして、王国がダンジョン内の商取引に法律を適用しようとすることは、単なる税制の変更では済まない。
場合によっては、ダンジョンに対する主権の主張と受け取られる。
「……分かりましたわ」
セレスティアは静かに息を吐いた。
「王国法をダンジョン内に適用するという考えそのものが、間違っていたのですね」
「たぶんそうだな」
「では、ダンジョン内の商取引については?」
「王国とダンジョンで話し合って、必要なら取り決めを作ればいいんじゃないか?」
アレンにとっては、それだけの話だった。
王国が一方的に法律を押し付けるのではなく、ダンジョン側と合意したうえでルールを決める。
それなら問題はない。
セレスティアは頷いた。
「つまり、法律を適用するのではなく、協定を結ぶ……」
「そういうことだな」
王国では大勢の人間が頭を抱えて議論している。
しかし、アレンにとっては当たり前の話だった。
ダンジョンはダンジョン。
王国は王国。
互いに利用することはできても、相手を支配することはできない。
セレスティアは、この時ようやく理解した。
ダンジョン内に王国法を適用することは、不可能なのだ。
必要なのは、王国法を押し付けることではない。
ダンジョンと王国。
その二つが共存するための、新しい取り決めだった。




