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人気商品

十三階層が追加されてから、ダンジョンの入り口では騎士団同士が情報交換する姿が増えていた。


 アレンはマスタールームから、その会話を聞いていた。


「そちらは精鋭まで連れてきたのか?」


「今回はな。人手が多いほうが集めやすい」


「なるほど。美容品外交では、そちらが一歩リードしているな」


「そういうことになるな」


 美容品外交。


 ずいぶん大げさな言葉が聞こえてきた。


 アレンは思わず苦笑する。


「美容品で外交って……」


 しかし、騎士たちにとっては冗談ではないようだった。


 ダンジョンから手に入る美容品は、すでにかなりの種類が増えている。


 ハンドクリーム。


 乳液。


 美容液。


 保湿クリーム。


 化粧水。


 どれもこの世界では簡単には手に入らない品だ。


 その中でも、特に欲しがられているのが美容液らしい。


「美容液は何本あってもいい」


「こちらも同じだ。できるだけ確保したい」


「やはりそちらも美容液か」


「他の品も欲しいが、優先順位をつけるなら美容液だな」


 アレンは少し意外に思った。


「美容液がそんなに人気なのか」


 以前から美容品の需要があることは分かっていた。


 しかし、騎士団が精鋭を連れてくるほど欲しがっているとは思っていなかった。


 しかも、隣領の騎士団も同じように美容液を欲しがっている。


 これなら確かに、美容品を巡って競争になる。


「衛生用品はどうだ?」


「リンスが一番人気だな」


「シャンプーや石鹸も人気はあるぞ」


「もちろんだ。ただ、あれはスペシャルガチャじゃなくても出る」


「そうだな」


「だから、出れば嬉しい。だが、出なかったとしても買って帰ればいい」


 アレンはそこで納得した。


 十三階層のピックアップに石鹸、シャンプー、リンスを選んだのは正解だったようだ。


 どれも需要はある。


 特にリンスは人気が高い。


 ただし、これらはスペシャルガチャだけの景品ではない。


 だから、絶対にガチャで引かなければならない商品ではない。


「美容液とは扱いが違うんだな」


 アレンは呟いた。


 欲しい物にも優先順位がある。


 出れば嬉しいもの。


 何としてでも欲しいもの。


 そして、ガチャでなくても購入できるもの。


 冒険者や騎士団は、いつの間にか自分たちでそれを理解していた。


 さらに、会話はインゴットへと移っていく。


「美容品だけじゃないだろ。インゴットも集めるんだろ?」


「ああ。そちらも重要だ」


「装備の更新か?」


「そうだ。せっかくインゴットを手に入れられるんだ。古い装備を使い続ける理由もない」


 アレンは少し身を乗り出した。


「やっぱり装備の更新に使うのか」


 インゴット専用ガチャを作った目的は、上級冒険者に何度も来てもらうことだった。


 その狙いは見事に当たっている。


 一キログラムでは武器を作るには足りない。


 だから何度もガチャを回す。


 そして、騎士団ともなれば一人分の装備だけでは終わらない。


 人数分の装備を更新するとなれば、必要なインゴットの量はかなりのものになる。


「まずは美容品だな」


「ああ。必要な数を集める」


「それが揃ったら?」


「次はインゴットだ」


 騎士団は、すでに具体的な計画まで立てているようだった。


 必要な美容品を集める。


 必要数が揃ったら、次はインゴットを集める。


 そしてインゴットを使って装備を更新する。


「なるほど……」


 アレンは感心した。


 これなら騎士団が一時的に訪れるだけでは終わらない。


 美容品を集める期間が終わっても、その次にインゴットを集める目的が残っている。


「しかも、インゴットは一回一キロだからな」


 必要量が多ければ多いほど、ガチャを回す回数も増える。


 魔石を集めるためにダンジョンへ入り、魔石が貯まればガチャを回す。


 また魔石を集める。


 その繰り返しだ。


「上級冒険者が何度も来る理由ができたわけだ」


 アレンは満足そうに頷いた。


 最初は、人が来ないことが問題だった。


 ガチャを置いても、初心者は来るが、上級冒険者は長く滞在しない。


 要望箱をやってみれば、エントリーと結果発表のときには上級冒険者まで集まった。


 しかし、それが終われば帰ってしまった。


 そこでインゴット専用ガチャを設置した。


 今度は逆に、人が集まりすぎて階層を増やすことになった。


 そして十三階層には美容品のピックアップを設置した。


「人を増やすために始めたのに、今度は人が多すぎて階層を増やすことになるとはな」


 アレンは苦笑する。


 しかも、階層が増えたことで騎士団同士が話し合い、十一階層は騎士団、十二階層は上級冒険者、十三階層は隣領の騎士団という具合に、いつの間にかそれぞれの活動場所まで決まっていた。


「ダンジョンって、こんな感じになるものなのか?」


 アレンには分からない。


 ただ一つ分かるのは、以前の不人気ダンジョンとは完全に状況が変わったことだった。


「まあ、来てくれるなら何でもいいか」


 アレンはマスタールームから、今日も続々とダンジョンへ入っていく冒険者たちを眺める。


 美容品を求める者。


 インゴットを求める者。


 そして、それぞれの目的を終えるまで何度も通う者。


 アレンが想像していた以上に、ダンジョンは冒険者たちの生活の一部になり始めていた。

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