リフレッシュ
マスタールームのモニターを眺めながら、アレンはふと思った。
「……俺、最近ずっとここにいないか?」
ダンジョンの管理。
ポイントの確認。
各階層の状況確認。
新しく傘下に入ったダンジョンの確認。
やることはいくらでもある。
だが、それを終えたあとも、アレンはマスタールームから出ることがなかった。
「別に、出る必要もないんだけどな」
ダンジョンマスターなのだから、ここにいるのが仕事と言えば仕事だ。
しかし、モニターに映るダンジョンランドを見ていると、妙な気分になってくる。
遊園地。
映画館。
ボウリング。
ダーツ。
ビリヤード。
温泉にサウナ。
美容施設まである。
それなのに、その中で一番遊んでいないのがアレンだった。
「……俺が作ったのに」
アレンは椅子から立ち上がった。
「今日は遊ぶか」
思い立ったら行動は早い。
アレンはマスタールームを出ると、ダンジョンランドへ向かった。
今日は平民の日だった。
ダンジョンランドでは、混雑を避けるために平民と貴族で利用日を分けている。
もちろんアレン自身はどちらの日でも入れる。
だが、貴族の日に行けば、どうしてもセレスティアや王妃、貴族たちと顔を合わせることになる。
今日は誰にも気を遣わずに遊べる。
「こっちのほうが楽だな」
入口を抜けると、すぐに人の多さに気づいた。
家族連れ。
友人同士。
恋人らしき男女。
子供たちは目を輝かせながら、どの施設へ行くか相談している。
アレンはその様子を眺めながら歩いた。
「……普通の遊園地みたいだな」
いや。
普通の遊園地など知らない。
アレンが知っているのは日本の遊園地だけだ。
それでも、目の前に広がる光景は懐かしかった。
まず向かったのは、ジェットコースターだった。
「これ、作ったのはいいけど乗るのは久しぶりだな」
係員に案内され、アレンは座席に乗り込む。
安全確認が終わり、ゆっくりと車体が上っていく。
ガタン、ガタン、ガタン。
「……思ったより高いな」
頂上に到着した。
一瞬、止まる。
そして――
「うわあああああああっ!」
車体が一気に落下した。
風を切りながら、身体が座席に押しつけられる。
カーブ。
上昇。
急降下。
回転。
「ちょ、待て! こんなの聞いてないぞ!」
周囲から歓声が上がる。
アレンも叫んでいた。
数分後。
ジェットコースターから降りたアレンは、ふらふらと歩いていた。
「……楽しかった」
口元が笑っている。
次に向かったのは観覧車だった。
こちらは打って変わって静かだった。
ゆっくりと上昇していくゴンドラから、ダンジョンランド全体を見渡す。
巨大な施設。
整備された道。
多くの人々。
そして、その外側にはダンジョンの町が広がっている。
「結構、大きくなったな」
最初は何もなかった。
ポイントを使って一つずつ施設を増やしていった。
それが今では、こうして人が集まり、一日を楽しむ場所になっている。
「俺、ちゃんとダンジョンマスターやってるじゃないか」
そんなことを考えていると、観覧車が一周した。
降りたアレンは、そのままボウリングへ向かった。
「これも久しぶりだな」
ボールを選び、レーンに立つ。
狙いを定めて投げる。
ゴロゴロゴロ……。
「……」
一本。
「……」
アレンは無言で次のボールを取った。
結果は散々だった。
「なんでだ」
ボウリングの次はダーツ。
その次はビリヤード。
どれも特別うまくはなかった。
だが、アレンは妙に楽しんでいた。
「勝つ必要なんてないんだよな」
マスタールームにいると、どうしても効率を考えてしまう。
ポイントがどう。
施設の収益がどう。
冒険者の動きがどう。
ダンジョンの経営がどう。
だが、今日は違う。
遊ぶために来た。
それだけでいい。
昼になり、アレンはフードコートで食事を取った。
「これも普通にうまいな」
周囲では平民たちが楽しそうに食事をしている。
アレンもその中に混ざっている。
誰も彼がダンジョンマスターだとは知らない。
それが妙に新鮮だった。
午後は映画を一本見た。
その後、温泉に入り、サウナにも入った。
「……最高だな」
完全に休日だった。
夕方になっても、アレンは帰らなかった。
最後にもう一度遊園地を歩く。
昼間よりも人が増えている。
笑い声が聞こえる。
子供たちが走っている。
店からは食べ物の匂いが漂っている。
「こんなに人が来てるんだな」
アレンは足を止めた。
今まで、ダンジョンランドを数字として見ていた。
利用者数。
売上。
消費されたポイント。
魔石の購入量。
だが、実際に来てみると、それだけでは分からないものがある。
ここに来た人たちは、ちゃんと楽しんでいる。
「……まあ、作ってよかったか」
そう呟いて、アレンは笑った。
マスタールームに籠もっているだけでは、こういうことには気づけない。
「たまには外に出るか」
とはいえ、ダンジョンの外へ出るわけではない。
アレンにとっての外出とは、ダンジョンランドへ遊びに行くことだった。
「明日からまた仕事だな」
そう言いながら、アレンは最後にもう一度だけジェットコースターへ向かった。
結局その日、アレンがマスタールームへ戻ったのは、夜になってからだった。




