ダンジョンマスター白
「白、よくやった。高級ビーフジャーキーを用意してるぞ」
アレンがビーフジャーキーを差し出すと、白はすぐに駆け寄ってきた。
尻尾を大きく振りながら、差し出されたビーフジャーキーを咥える。
「うまいワン」
「おいうっかりしゃべっておるぞ」
クロノスが即座に突っ込む。
白はピタリと動きを止めた。
そして何事もなかったかのように、
「ワン」
と鳴いた。
「誤魔化したつもりか?」
「ワン」
「……まあよい」
クロノスは呆れながら白を眺める。
白はそんなことなど気にする様子もなく、ビーフジャーキーを夢中で食べていた。
しばらくして、クロノスがアレンを見る。
「それより我にはないのか?」
「白は犬だから餌がいるけど、クロノスはドラゴンだからいらないでしょ」
「我も欲しいぞ」
「食べないと死ぬの?」
「死なんが、人間にとってコーヒーみたいなもんじゃ」
「霞を食べて生きてるのかと思ったよ」
「どこの仙人じゃ」
クロノスは呆れたように答える。
「長く生きているドラゴンにも食の楽しみくらいある」
「何が食べたいの?」
「肉がいい」
「じゃあ日本でA5ランクの肉」
アレンが日本から取り寄せた肉を取り出した。
見るからに上質な肉だった。
クロノスの目が輝く。
「うまそうだな」
「どうぞ」
アレンが肉を差し出す。
クロノスが受け取ろうとした、その瞬間だった。
白が突然走ってきた。
「ワン!」
「なっ!」
白がクロノスの前を横切る。
そして肉を咥えた。
そのまま一目散に走り去っていく。
「おい、待て!」
クロノスが叫ぶ。
白は止まらない。
「ワン!」
「それは我の肉だぞ!」
白は振り返る。
肉を咥えたままクロノスを見る。
「ワン!」
「なぜそこで返事をする!」
白は再び前を向く。
そしてさらに速度を上げた。
「待て! お前、さっきビーフジャーキーを食べただろう!」
「ワン!」
「食べただろうが!」
「ワンワン!」
「だからといって、他人の肉まで奪っていい理由にはならんぞ!」
白は肉を咥えたまま、どんどん遠ざかっていく。
クロノスは追いかけようとしたが、ふと立ち止まった。
「……」
アレンは何も言わず、その様子を眺めている。
クロノスがアレンを見る。
「アレン」
「なに?」
「我の肉が盗まれたぞ」
「うん」
「取り返してくれ」
「白が食べ終わるまで待てば?」
「なぜ我が待たねばならんのだ?」
「次の機会にまた出せばいいでしょ」
「我が食べたかったのは今の肉なのだが」
クロノスは納得できない顔をする。
遠くでは白が肉を夢中になって食べている。
「ワン……ワン」
「……」
クロノスは白をじっと見る。
「白よ」
「ワン?」
「お前は先ほど十分に食べただろう」
「ワン」
「それなのに我の肉まで奪うとは、なかなかいい度胸をしておるな」
白は肉を咥えたまま首を傾げる。
「ワン?」
「その顔をすれば許されると思っているのか?」
「ワン」
「……」
クロノスはしばらく白を見つめる。
そして、ゆっくりとため息をついた。
「一度、上下関係を教えんといかんな」
「ワン!」
白は元気よく鳴くと、残った肉を咥えて走り出した。
「こら待て!」
クロノスが追いかけていく。
アレンはその二人を眺めながら、何も言わずに見送った。




