新戦力白
アレンは子ダンジョンを増やすのに、どこを狙うか考えていた。
ダンジョン間を繋ぐだけなら、場所はどこでもいい。
しかし、今回作る子ダンジョンには別の目的がある。
ダンジョンワープの実験だ。
現在はダンジョン同士を繋ぐこと自体はできる。
だが、それを誰でも利用できるようにした場合、どんな問題が起きるのかは分からない。
「まずは国内にしなさい」
地図を見ながらセレスティアが言った。
「いきなり外国と繋ぐのは問題が多いわ」
「そうだな。まずは国内で試してみるか」
アレンも地図を見る。
「冒険者が安定して来ているCランクダンジョンくらいが候補か」
「そのくらいがいいでしょうね」
あまり人が来ない場所では実験にならない。
逆に、SランクやAランクのダンジョンでは、人の流れが大きすぎて問題が起きたときに対処しにくい。
Cランクくらいなら、冒険者も多く、実験をするにはちょうどいい。
「実験で誰でもダンジョンワープを使えるようにするのよね」
「そのつもりなんだけど」
アレンは地図を見ながら答える。
「冒険者も商人も、自由に移動できるようにしてみたい」
「なら、最初の場所は慎重に選ばないといけないわね」
セレスティアは地図を指差した。
「リリアの領地の近くにいいのがあるわ」
「リリアの領地の近くか」
アレンが地図を覗き込む。
そこにはCランクダンジョンの名前が書かれていた。
「ここなら冒険者も安定して来ているし、町もある」
「実験場所としては悪くないでしょう?」
「確かにな」
アレンはダンジョンの情報を確認する。
「Cランクダンジョンなら、ダンジョンボスがCランクで、ダンジョンマスターがBランクか」
「そういう評価になっているわ」
「Aランク以上の戦力がいるな」
ダンジョンワープの実験をする以上、子ダンジョン側にも最低限の防衛力は必要になる。
アレンは少し考えた。
「よし」
「何を召喚するの?」
「召喚するモンスターはフェンリルだ」
セレスティアがアレンを見る。
「……いきなり凄いものを選んだわね」
「強いほうがいいだろ」
「まあ、そうだけど」
アレンは気にせず召喚を開始した。
魔力が集まっていく。
空気が震え、強大な気配がその場に満ちる。
やがて現れたのは、巨大な狼だった。
白銀の毛並み。
巨大な体躯。
鋭い牙。
その姿だけで、普通の魔物ではないことが分かる。
フェンリルはゆっくりと周囲を見渡した。
そしてアレンを見る。
「我を従えたかったら力を見せよ」
堂々とした声が響いた。
アレンは少し驚いた。
「しゃべるのか」
「当然だ」
フェンリルは誇らしげに答える。
「我はフェンリルだぞ」
「そうなのか」
アレンが感心していると、少し離れた場所にいたクロノスがフェンリルを見る。
アレンもクロノスに気づいた。
「クロノス、なんか言ってるよ」
「我が相手するのか?」
クロノスがフェンリルを見る。
そのままフェンリルの前へ歩いていく。
フェンリルはクロノスを見た。
巨大な古代竜。
それだけならまだいい。
問題は、その古代竜がただの古代竜ではないことだった。
名を与えられた存在。
このダンジョンにおいて、最終防衛線とも言える存在。
フェンリルの顔から、先ほどまでの威厳が消えていく。
「……」
クロノスが近づく。
フェンリルは後ずさる。
そして、
「キャイン!」
その場で仰向けになった。
巨大な腹を丸出しにして、尻尾まで振っている。
完全な降参だった。
「おい、降参のポーズとってるぞ」
アレンが呆れる。
クロノスもフェンリルを見下ろす。
「我は何もしておらんぞ」
「見ただけで分かったんだろ」
フェンリルは必死に尻尾を振っている。
先ほどまで、
『我を従えたかったら力を見せよ』
などと言っていた存在とは思えない。
アレンはそんなフェンリルを見ながら考える。
巨大すぎる。
このまま町の近くに置いたら、冒険者が見ただけで大騒ぎになる。
「犬のサイズになれ」
「ワン」
フェンリルは即答した。
巨大だった体が光に包まれる。
みるみるうちに体が縮んでいき、やがて普通の犬ほどの大きさになった。
白銀の毛並みはそのままだ。
ただし、威圧感はほとんどなくなった。
アレンは小さくなったフェンリルを見る。
「これなら町を歩いても問題ないな」
フェンリルはアレンの足元まで近づいてくる。
「お前の名前は白だ」
「キャイ~ン!」
白は嬉しそうに尻尾を振った。
「さっきまで普通にしゃべっておったぞ」
クロノスが呆れたように白を見る。
「ワン!」
白は何事もなかったかのように尻尾を振った。
さっきまで自分を従わせるために力を見せろと言っていたフェンリルは、今ではすっかり犬になっていた。




